
こんにちは、estie 取締役CTO の Nari (@tiwanari) です。
2026年6月8日から12日まで、群馬県高崎市のGメッセ群馬で開催された人工知能学会全国大会(JSAI2026、第40回)に、estie からチームで参加してきました。第40回の節目となる今年はオープニング時点で過去最多の4,868名が参加登録をしており、期間中にも参加者が増えていて5,000名以上が参加したとのことでした(すごい)。
estie は今年プラチナスポンサーとして協賛し、企業ブースを出展しました。
わたしはインダストリアルセッションで登壇し、東京大学 山﨑研究室との共同研究もオーガナイズドセッション「不動産とAI」で発表されています。この記事では、estie がJSAI2026で何を発表し、現地で何を学んできたかをご紹介します!
Vertical Data と Vertical AIをテーマに登壇
さて、まずはわたしの登壇からです。初日6月8日の夕方、インダストリアルセッション2で「不動産業界における業界特化のデータ整備とAI活用:Vertical DataとVertical AI」というタイトルでお話しました。
伝えたかったことはシンプルで、不動産業界で AI 活用の最大の壁になるのはモデルの精度ではなく、業界横断で使えるデータの不在だ、ということです。
東京は機関投資家が保有する不動産アセットで世界1位の都市です。一方で、グローバル不動産透明度インデックスでは日本は11位にとどまります。この大きなギャップの中で実際に何が起きているかというと、たとえば競合ビルのテナント情報を知るために案内板を撮影してExcelに手入力したり、オーナーが月1回PDF・紙・電話で配る空室情報を仲介会社が1件ずつ自社DBに打ち込んだりしています。
estie はこのデータ整備を2018年から積み上げてきて、その過程で生まれた技術をこの2-3年で20件を超える特許として出願し、10+件が登録されています。登記簿PDF(罫線文字と全角空白で桁を合わせた、ほぼASCIIアートのような構造です)から所有者・地番を構造化する技術や、すべてが一点ものであるがゆえに正解がない不動産の適正価格をLLMで推定するシステムなどが含まれます。こうして整備した業界特化型データベース「Vertical Data」の上に、書類読み取り・賃料予測・AIエージェント基盤といった業界特化のAI「Vertical AI」を載せていくのが estie の業界へのアプローチです。
発表の最後は「実業務と研究が密接につながるワクワクする時代」というメッセージで締めました。複雑な課題を解いて実運用まで持っていくには、多数の複雑で深い課題があり、研究的な取り組みが必須で、事業を伸ばすことと密接に繋がっている、というのがわたしの実感です(蛇足ですが、わたしも昨年10月から社会人博士課程に通っています)。発表後にブースまで来て「うちの業界も同じ構造です」と話し込んでくださる方が何人もいて、この課題が不動産に閉じないことも確かめられました。
東大山﨑研との共同研究を発表
6月10日の「不動産とAI」セッション(OS-27)では、東京大学 山﨑研究室と estie の共同研究「大規模言語モデルによる多角的誤差分析に基づいた不動産賃料予測手法の自動改善」(髙辻優太・岩成達哉・勝田良介・増田俊太郎・易聖舟・山﨑俊彦)を、筆頭著者の髙辻さんが発表しました。
賃料予測モデルの精度向上には、特徴量設計やハイパーパラメータ調整といった専門的な試行錯誤が必要で、多大な工数がかかります。この研究では、過去の試行履歴と詳細な誤差情報をLLMに渡し、改善案の立案・実装・評価のループを自動で反復させます。検証では、ベースラインの LightGBM に対して統計的に有意な精度向上を確認できました。既存の LLM × AutoML 研究の多くが特徴量生成など単一工程に閉じていたのに対し、改善ループ全体を任せる点が新しいところです。
estie でも賃料推定に取り組んでいるのですが、その改善プロセス自体を自動化するというメタな一歩で、estie のデータと大学の研究が噛み合った成果です。
印象に残った発表
自社出展ブースの対応の合間を縫って、5日間毎日セッションを聴講しました。すべては書ききれないので、特に持ち帰りが大きかったものを紹介します。
基調講演: 人工知能とビジネスシステムアーキテクチャの共進化(國領二郎先生・慶應義塾大学)
初日のオープニング基調講演です。中心にあったのは、人間の認知限界を前提に設計されてきたすべてのシステムが、AIエージェントの認知能力に合わせて再設計される、という見立てでした。さらに、汎用化が支配的だった30年を経て、AIによって業界特化型が復権するのではないか、という問いも提示されました。
業務システムも商習慣もデータの持ち方も人間の制約に合わせてできているなら、AI前提の再設計はそれらの概念の再定義から始まることになります。estie がやってきたデータベース構築は、不動産業界におけるその再設計の一部とも整理できる講演でした。
OS-27「不動産とAI」: 研究領域として立ち上がる不動産AI
estie の共著発表があった「不動産とAI」というオーガナイズドセッション(前半・後半)では、ほかにも不動産を正面から扱う研究発表が半日にわたって並びました。
いくつか挙げると、
- 重要事項説明書の作成をAIで支援しようとすると、情報基盤の非標準化に阻まれるという実務家からの提言(合同会社アキューズ)
- J-REITの開示資料に含まれる多様なフォーマットの表を、LLMで構造化する手法(日本取引所グループ)
- 東京23区の賃貸オフィスビル23,185件のデータベースと延べ20万回の印象評価アンケートをもとに、外観デザインが個人の受ける印象に与える影響を定量化する研究(東京科学大学 × オフィスビル総合研究所)
- LLMは間取り画像から開放感や高級感といった視覚的印象は読み取れる一方、動線やプライバシーといった構造の理解は苦手だと示した比較分析(ニュージャージー工科大学 × 東京大学)
などです。どの発表にも共通していたのは、データの非標準・非構造が研究の出発点になっていることでした。住所と地番の対応関係に公式データが存在しない、開示資料のフォーマットが法人ごとにバラバラ、といった課題は estie が日々向き合っているものそのもので、議論がそのまま仕事に接続する感覚がありました。実務家と研究者が同じテーブルで業界のデータ基盤を議論できる場が生まれていることに、このセッションの大きな価値を感じました。
ブースと懇親会
会期中は estie ブースにわたしもシフトで立ちました。大学・企業の研究者の方々、各社のデータサイエンティストやAI推進担当の方々、estie に興味を持ってくれている学生さんと、来てくださる方の層が幅広く、「商業用不動産のデータベース作るの大変そうですね」「そんなにプロダクトたくさんあるんですね」と驚いてもらえる瞬間が何度もありました。
夜は estie 主催の懇親会に加えて、「不動産とAI」セッションの関係者のみなさんとの懇親会にも参加しました。オーガナイザの先生方や登壇者の方々と、不動産xAIのテーマを夜遅くまで話せたのは、現地参加ならではの収穫です。
おわりに
今回いちばん強く感じたのは、研究コミュニティと事業の距離が急速に縮まっていることです。研究者は実社会のデータと実務知識を求めていて、事業会社は実運用の壁を越えるために研究の力を必要としています。特に今年はこの「不動産とAI」コミュニティ自体が10周年記念とのことで、長く取り組まれてきた努力がこの関係を作っているのだと実感しました。データベースを持ち、大学と共同研究を進め、顧客である不動産会社のみなさまと業界を前に進めるために一緒に取り組める estie の立ち位置は、その交点としてかなり恵まれていると再確認しました。
estie では「不動産 × AI」に一緒に取り組む仲間を募集しています。賃料予測の自動改善も、書類からの情報抽出も、この記事に出てきたテーマはどれも estie の現在進行形の仕事で、長年構築してきたデータベースがあることからやりたいテーマはたくさんあります。研究の成果を事業に還す環境に興味のある方、ぜひ採用情報をのぞいてみてください。学生インターンも積極的に募集中です!
また、estie主催で不動産 x AIについてもお話しする estie Engineer Night を6月26日(金)19時より六本木本社で開催予定です!懇親会もありますので、ぜひお気軽にお越しください!