海外投資家とDBJが語るestieの可能性 投資の決め手とは


estieは、シリーズBラウンドにおいて、既存投資家である株式会社日本政策投資銀行(以下、DBJ)に加え、新たにグローバルなグロース投資家であるVertex Growth社を迎え、資金調達を実施しました。

世界中で複数のユニコーン企業への投資実績を持つVertex Growthが、日本で3件目となる投資先として、estieを選んだ理由は何だったのか、また政府系金融機関であるDBJがestieに期待する日本経済への貢献とはどういったものなのか。

今回の対談では、Vertex GrowthのTAM Hock Chuan氏とDBJの関啓介氏が、シリーズBに参加をした背景について語ってくださいました。

「不動産版Bloomberg」のような存在になってほしい

estie上田: 本日はどうぞよろしくお願いします。まずはVertex GrowthのHock Chuanさん、DBJの関さんから自己紹介をお願いできますでしょうか。

Vertex Growth Hock Chuan: 私たちは、シンガポールを拠点とするグロースファンド、Vertex Growthです。アンカー投資家であるVertex Holdingsは、テマセク・ホールディングスの100%子会社です。Vertexのネットワークには、Vertex Growthなど7つのチームが含まれ、中国・イスラエル・日本・東南アジア・インド・米国に現地チームを持ち、管理資産(AUM)は総額60億ドル以上にのぼります。Vertex Growthは、カテゴリー・チャンピオンとなるような革新的な企業に拡大資金を提供することを使命としており、Vertexネットワークの姉妹ファンドの投資先がグロースラウンドを募る投資機会にアクセスしながら、姉妹ファンドが活動していない日本と韓国においては戦略的に新規投資を重ねてきました。

DBJ関: 日本政策投資銀行(DBJ)は、皆さんもご存じのとおり長い歴史を持つ政府系金融機関で、私自身はDBJの企業投資第2部という部署に所属しています。DBJではスタートアップこそが日本経済の成長を支える鍵だと信じ、5年前から本格的にスタートアップ投資を強化しています。従来は国内のアーリーステージ企業に焦点を当てていましたが、最近ではグロースステージの企業に注目するようになりました。

estie上田: まずはHock Chuanさんにお聞きします。Vertex Growthの皆さんとは、元UTECで現在御社の日本市場担当である林佑樹さんからのご紹介で、一年前に初めてお会いしましたね。林さんからは事前にestieについてどのような話を聞いていましたか?

Vertex Growth Hock Chuan: Yukiはestieを創業初期からよく知っており、estieの熱心なファンでした。彼はVertexへの入社以来「estieはUTECの中でも最高のポートフォリオの一社です。ぜひ投資しましょう!」と言い続けていました。実際に最初の面談で平井さん、上田さんとお会いし、estieの創造的なアプローチにとても印象づけられました。不動産業界の情報流通には課題が多いと理解していますが、estieでは業界に関する知見や業界内のネットワーク、優れたテクノロジーをいかして制約を打ち破り、この産業にとって無くてはならないデータインフラの構築を進めています。今後もestieが不動産情報流通のハブとして重要な役割を果たし、業界における影響力がますます大きくなっていくと期待しています。

Vertex Growth Hock Chuan: 投資家として、私たちは特に、金融業界におけるBloombergのような、不動産業界における先導的な不動産データプラットフォームになる可能性を秘めたestieの将来性に魅力を感じました。私は、金融業界に長く携わってきた身として、Bloombergが金融業界をどれほど効率的なものに変えたか見てきました。estieの経営陣が、不動産業界のデータ流通の課題に着目し、先見の明を持ってビジネスを構築していること、そして、事業構築についての先端的なアプローチに感銘を受けました。特にアジアを中心に不動産テックスタートアップを数多く見てきましたが、グローバルな拡大を達成するビジョンとリーダーシップを備えた企業として、estieは特に際立っています。

estie上田: 私も海外の投資家に「estieは不動産版Bloombergです」と自己紹介することが多いのですが、金融業界に精通しているHock Chuanさんにも共感していただけて嬉しいです。

Vertex Growth General Partner TAM Hock Chuan氏

兆円規模になるスタートアップを探していた

estie上田: さて、estieとDBJとの関係についてもお話しさせてください。2021年にDBJのアセットファイナンス部にサービスを導入したこともあり、2年前に関さんの企業投資第2部のチームとお会いしました。その後2023年10月に資本業務提携を締結させていただいて以来のパートナーシップとなります。

DBJ関: DBJの不動産投融資のプロフェッショナルチームであるアセットファイナンス部がestieのサービスのユーザーかつファンであり、業界におけるestieの存在感を誰よりも認めていました。彼らから私の所属する企業投資第2部に対して「ぜひ不動産テックの有力企業であるestieへの投資を検討すべきだ」と強く推奨されていたこともあり、行内での投資検討はスムーズに進めることができました。実際に日本においてこれほどの豊富な情報を不動産事業者や投資家向けに提供できるサービスプロバイダーはestieだけだと確信しています。

DBJ関: 実はDBJでは従来から、日本市場に限らず、グローバルな不動産テック企業や、不動産テックに投資する海外VCの動向をリサーチしていました。アメリカにはCoStarという時価総額が数兆円規模の老舗不動産テック企業が存在しているのですが、将来的にCoStarのような兆円規模の企業へと成長する可能性を持つスタートアップを国内外問わず探していたんです。そこで出会ったのがestieでした。2022年にお話を伺った際、そのビジネスモデルの独自性と強さに感銘を受け、estieこそが「日本版CoStar」と呼べる存在になれると思いました。

estie上田: 国内外の不動産テック企業を広くリサーチされた結果、estieに特別な魅力を感じていただけたとのこと、非常に光栄です。

AIの活用において、estieは有利なポジションにある

estie上田: 今年の5月ごろからシリーズBのプロセスが始まりましたが、NDA締結後の情報開示以降、デューデリジェンス(DD)を通じて、初期仮説からestieに対する見方が変わった点や新たな発見はありましたか?

Vertex Growth Hock Chuan: 当社の投資プロセスは通常、興味を持った企業との最初のミーティングから始まります。
時には、その企業に一目惚れしたり、初めて会ったその場で恋に落ちたりすることもあります(笑)その後、予備的な仮説を検証するための厳格なデューデリジェンスプロセスが続きます。今回は、Yuki が徹底したデューデリジェンス・調査・検証をリードしてくれたことで、estieの事業やプロダクトについて理解が深まり、estieのさらなる成長可能性に対する確信が一層強まりました。estieの最大の強みの一つは、オフィスや物流といった現在のカバレッジから、他のアセットタイプへと横断的に成長できることです。さらに、estieは、アセットタイプごとにさまざまなサービス形態で深く展開できることがプロダクト上の大きな強みだと感じました。また、営業面においては既存の顧客基盤やデータベースを活用しつつ、プロダクトや事業の拡大を通じて次々と新しい顧客セグメントに対応できる点がestieの強みです。さらに、隣接する事業領域にも進出できる柔軟性を持っていることに驚かされました。これは、進化する市場の需要への適応力と、強靭なビジネスモデルを構築する能力を示しています。こうしたレジリエントかつ適応力のあるビジネスモデルを構築した経営陣の能力には非常に感銘を受けています。その戦略的洞察力と実行能力により、estieは不動産テクノロジー分野における複数の成長ベクトルを最大限に活用する立場を確立しています。

Vertex Growth Hock Chuan: 今後もテクノロジーは大きく変化していくでしょう。特にAIの活用は、あらゆる業界を変革していくと注目されており、不動産業界も例外ではありません。AIを活用して事業に影響を与えるインサイトを引き出すには、十分なデータが必要です。この点で、estieは非常に有利な市場ポジションにあると感じています。その広範なデータセットとAI能力を活用することで、estieは多様な市場や資産クラスに対応する実用的な洞察を引き出すことができます。また、Vertex Growthはグローバル市場において成長段階の企業でのAI活用の先進事例に豊富な経験と深い理解を持っており、今後はその知見を基に、国際的なビジネス動向、グローバルな視点、ベストプラクティスを提供し、estieの成長意欲をサポートすることに尽力していきます。

estie上田: estieの事業展開の可能性についても触れていただき、ありがとうございます。私たちは「DaaS事業」と呼んでいる独自のデータベースを活用した情報分析基盤を顧客に提供することが強みです。このデータベースは、顧客のワークフローを支援・強化するSaaSなど、DaaS以外の事業にも展開可能であり、これがestieを「コンパウンドスタートアップ」として成長させる原動力となっています。

estie上田: さらに、estieが保有する豊富なデータは、AI活用においても強みを発揮できると考えています。つまり、estieが持つマーケットデータと、ユーザーが持つ一次情報が相互補完し合うことで、AIの可能性を最大限に引き出すことが可能になるのです。AIで加速するDXを通じestieが不動産業界のさらなる発展に貢献できる、その未来を想像すると非常にワクワクします。

estie 取締役CFO 上田 來(うえだ きたる)

業界全体にまたがる情報流通インフラにより不動産市場が活性化し、経済が発展する

estie上田: 2023年10月にDBJとの資本業務提携を締結して以降、関さんのチームには毎月の取締役会にオブザーバーとして参加いただいています。estieのプロダクトやチームをよくご存じの既存投資家として、どのようにestieの強みを評価されていますか?

DBJ関: そうですね。私はestieの強みを3つの要素で説明できると考えています。まず第一に、データベースに基づく優れたプロダクト群です。日本の不動産市場において独自のデータベースを持っていることが、estieの大きな競争優位となっています。 二つ目は、強力な経営陣です。日本には多くの起業家や経営者がいますが、estieの経営チームは、不動産業界をテクノロジーでよりよくしたいという強いパッション、不動産業界に対する深い知見とネットワーク、海外成功事例の研究を含めた勉強熱心さなど、際立って優秀だと感じました。そして三つ目は、非常に強力な開発チームです。技術力はもちろん、エンジニアやデザイナーが「日本の不動産市場におけるデジタルプラットフォームを構築する」という共通のビジョンを持っていることに、いつも感銘を受けています。

DBJ関: また「日本の不動産市場におけるデジタルプラットフォームをつくる」というestieのビジョンは、政府系金融機関であるDBJにとって非常に重要な意味を持っています。なぜなら、日本の不動産市場は世界的にも非常に大きな産業である一方、取引情報や情報流通に関してはまだ改善の余地があると考えているからです。estieを通じて業界全体にまたがる情報流通インフラが整備されれば、日本の不動産市場はさらに活性化し、日本経済の発展に大きく貢献すると信じています。

上田: 私たちestieは「産業の真価を、さらに拓く。」というパーパスを掲げ事業を進めていますが、DBJの皆様と接していると、産業に対する長期的な視座や、日本経済を良くしたいというパブリックマインドを強く感じ、僭越ながら皆様と同じビジョンを共有させていただいていると考えています。今回のシリーズBを通じて、不動産業界の先駆者であり日本経済を支える金融プレーヤーであるDBJから、これまで以上に強力なサポートをいただけることを心から嬉しく思っています。

投資の意思決定を最終的に決めた要因

estie上田: ここまでお二人とも、いい話を聞かせていただいてありがとうございます(笑)ここからはもう少しフランクな質問をさせてください。今回バリュエーションも低くはなかったと思いますが、ずばり投資委員会での反応はいかがでしたか?

Vertex Growth Hock Chuan: どんな投資家も「バリュエーションが高すぎる」と言いたくなるものですが(笑)、正直に言うとやはり他の案件と比べて高い水準だったとはいえ、日本の巨大な不動産マーケットと、業界内でのリーダーシップを踏まえると、estieのバリュエーションは妥当であると信じています。高い評価額に社内でも検討は促されましたが、我々の分析では、カテゴリーリーダーであるestieへの投資にはプレミアムを支払う価値があるという明確な結論に至りました。最終的に、当社が投資を決断したのは、estieの革新的なソリューションと市場におけるリーダー的地位が、将来的に巨大な利益をもたらすのに適しているという確信からでした。この投資は、持続的かつ長期的な成功を収める変革企業を見出し、支援するという当社の戦略に沿ったものであると確信しています。

estie上田: ありがとうございます。DBJの関さんはいかがですか?御行でもバリュエーションに関する議論があったと伺っています。

DBJ関: そうですね。現在の事業規模を踏まえた評価額の妥当性は行内でも議論になりました。そのため、巡航速度の成長以上に、さらなるアップサイドが期待できるかどうかが焦点となりました。特に、不動産業界における情報流通のあり方を根本から変革できるかという点が重要でした。これについては、estieのプロダクト品質や事業開発力の高さ、優れた人材といった要素に加えて、業界における大手プレーヤーとの強固な関係性も、こうした論点を評価するうえでプラス要因になりました。

日本政策投資銀行 企業投資第2部担当部長 関 啓介氏

おわりに ~ estieに期待する長期的な関係

estie上田: それでは最後に今後のestieとのかかわり方について一言いただけますでしょうか。

Vertex Growth Hock Chuan: 私たちはアクティブな投資家として、相互の信頼関係を築きながら、estieに対し戦略面で価値のあるアドバイスを提供したいと考えています。経営陣の自主性を尊重しながら有意義な貢献を行うことを目標としているため、当社の関与の度合いについてはオープンな対話を奨励しています。estieからもぜひ私たちを頼っていただければと思います。ただもし関与の仕方が積極的すぎると感じることがあれば、遠慮なく教えてください(笑)当社のコミットメントは、積極的な支援と企業の経営上の独立性の尊重との最適なバランスを見出すことにあります。

estie上田: 多くの貴重なアドバイスをいただけることを楽しみにしています。またestieは将来的に上場を目指していますが、今後は海外の機関投資家とのつながりも増えていくと思います。上場前後のIRに向けて、Hock ChuanさんやVertexの皆さんとのコミュニケーションが良いトレーニングになりそうです。

DBJ関: 昨年の資本業務提携以降、顧客のご紹介や、環境配慮型オフィスビルの賃料プレミアムに関する共同分析レポートの発表、さらに『不動産DXカンファレンス』の後援など、多岐にわたる協業を進めてきました。これからも、日本政策投資銀行として、estieとのパートナーシップをさらに強化し、協力を深めていきたいと思います。

estie上田: ありがとうございます、「不動産DXカンファレンス」での成功には、業界で中立的な立場にいるDBJの後援が非常に重要な要因だったと思います。また、皆さんにご紹介いただいた顧客からは、実際にいくつかの具体的な取引を成立させることもできています。本当に感謝しています。

estie上田: 改めて本日はお時間を割いていただき、ありがとうございました。

※本インタビューはZoom上で英語にて行われたものを本ブログ用に日本語に翻訳しています。

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