
はじめに
2025年 10月15日に CPO 協会が主催した Product Leaders AI 2025 というイベントにて、「AI × 価値創造最前線 -顧客価値/M&A/Vertical Data Moat」というタイトルでパネルディスカッションに登壇させていただきました。
大変ありがたいことにイベントでは Slido で会場からご質問をいただいていたのですが、時間の都合で回答できなかったものが多くございました。勝手ながらとても有意義な内容も多く含まれていたと感じましたので、少し時間が空きましたがアンサーブログのかたちでご回答できればと思います。
なお、一部ご質問の意図が正確に分かりかねたため回答を割愛させていただいたものもございますがご了承ください。
また、このアンサーブログの内容を包含してさらに詳細にまとめたブログも別途書いていますので、そちらもあわせてどうぞ!
Slido でいただいたご質問へのアンサー
それでは本題である、イベント当日に Slido でいただいたご質問へ回答していきます!
各社で今一番脅威に感じていることは何ですか
事業上の脅威は色々と想定がありますが、イベントの文脈に合わせて回答をすると、これまで以上に競争環境が激化するのではないかと思っています。今までは直接競合ではなかったプレイヤとぶつかることがあるなどです。
例えば Open AI や Google が金融、人材、製薬、メディア、そして不動産など特定ドメインに特化した AI Agent をパッケージとして揃えてきたことを想像してみます。
会社 HP の URL を入力するだけで自社が所有する物件一覧を作成し、賃料収入の合計値を計算する AI Agent は案外簡単にできそうですし、実際にやってきそうな気がします。このような各業界でベーシックな業務をいくつか自動化する Agent を束ねたパッケージを展開してくるといったシナリオは十分ありえるのではないかと思います。
そういったケースでも負けない状態に備えておくことは重要です。
例えば AI は Deep research を使って市場の賃料情報を収集することはできるかもしれませんが、最新情報には弱かったり、現在インターネット上にない情報 (過去に募集していたが今は募集していない物件の情報) はアクセスしづらく、そういったデータを活用する場合では価値を発揮できない可能性が高いと見ています。
このように、Big tech に対する競争優位性を維持する意味でも、””Semi-public data”” を持つことは重要なのではないでしょうか。
バーティカルSaaSはTAMが大きくならずより深い深い価値の提供を求められているように思っています。とはいえ一定の限界値がホリゾンタルに比べて早く来るのではという仮説があります(ゆえに上場SaaSはホリゾンタルばかりなのではと)。どのように連続的、もしくは非連続な成長を実現するのでしょうか。
SaaS という括りで考えるとそういった捉え方もあるかもしれません。逆に言うと SaaS という枠組みを外せば、上場企業のなかに Vertical プレイヤも多くいます。例えばエムスリーさんは製薬業界に特化しており時価総額も 1.5兆円を超えます (2025年10月時点)。
少し話が逸れますが、2025/09/01 付で JMDC 取締役会長の松島氏が estie の社外取締役に就任しました。JMDC は医療・ヘルスケアという巨大産業における圧倒的なデータプラットフォームを構築しているプレイヤです。その JMDC の決算資料から抜粋した図が以下となります。

この図から言えることは、Vertical はコンサルやソリューションに登っていくことができるという点です。当然、付加価値が高まり単価も上がり、SaaS を提供しているだけでは到達できない規模になることができる点が Vertical の魅力の 1つと言えると思います。
また、シバタナオキが断言「バーティカルAI一点張りで行け」注目すべき市場はここだ! - ALL AI PODCAST | Podcast on Spotifyでも、Vertical は一見狭いように見えるが狭く深く独占したあとに広がりがあり、さらに AI 時代において Vertical の方が学習を回しやすいなど語られております。
このように様々なアングルから、Vertical の可能性の広さ・深さがあると言えるのではないでしょうか。
生成AIに依存すると、差別化ができなくなってくると思うのですが、各社みなさん持っているデータが差別化につながるんだと思うのですが、それ以外になにか考えていることはありますか?(生成AIが賢くなればなるほど、AIエージェントレベルだとOpenAIとかに飲み込まれていくと考えておりまして。
非常に重要な問いだと思います。前述の通り Open AI など Platformer や Big tech 自体が競合化し自社プロダクトの価値を一気に奪いに来ることは、過去の歴史から見ても良くあることだと思いますし、明日それが起きない理由はないと感じます。
そしてイベントでお話した通り、データが差別化になっていくということが一番だと考えています。また B2B に限定された話になってしまいますが、顧客業務やドメイン理解をどれだけ深くできているかも見えづらい競争優位性になるのではないでしょうか。深さで戦うイメージです。
例えば請求書 1つとっても、実業務では請求書以外の付随資料が何種類も 1つの PDF ファイルに混ざった状態でやり取りされており、そもそもファイルのなかのどこが請求書なのかを特定するところから難しかったりします。
実際に顧客からは他社さんでは精度が出せなかったという請求書に対して、estie では業界特有の文脈やナレッジを考慮したプロンプト設計を通じて実業務で使える品質を実現することができています。
各社業界特化でバーティカルなサービスを提供されて、プロダクトの戦線が広がりがちで、AIをやる以前に求められることがたくさんあると思いますが、どのくらいリソース、時間を確保できていますか?
この質問者さんに非常に共感します (笑) 次から次へとやることが多くあり忙殺され重要性が高い AI アジェンダに取り組む時間創出は大きな課題だと思います。
estie では「不動産 AI Lab」という専門組織を設け、AI アジェンダにフルコミットするかたちでリソースと時間を仕組みで創出しています。KPI も売上などは追わずに事例創出数に近い指標を設け推進し、実際に何十件という PJ や PoC を創出しています。
また、新規プロダクトだけでなく既存プロダクトにどう AI を溶け込ませていくのかも重要です。これに対しては「事業に対する AI 貢献度」という指標を設けその度合いを測る運用を行っています。
そして最後に、全プロダクトを横断して AI Native に作り変えるとしたら?という問いを持つことが重要だと思っています。もし仮に自社と同じサービスを後発のプレイヤが AI Native にやってくるとしたらどんなかたちになるか?と想像しながら考えています。場合によっては自社内で自社の競合をつくることも辞さないくらいの振れ幅でやるのが大事かもしれません。
これは各プロダクトの PM というよりも、経営アジェンダに近いものだと思っていますので、VP や役員レイヤが手を動かしながら一番に頭をひねり続ける必要があると思います。
AIを利用したプロダクトはAPI使用料がかかってしまいますが、コスト回収についてはどう考えていますか?あるいはコストを抑える工夫をしていますか?
コストを抑える工夫と、AI Native なプロダクトにおけるプライシングの見直しは必至だと感じています。特にプライシングについてはこれまでのようなリカーリング (月次・固定) だけでは成立しないシーンが増える見立てをしています。実際、北米の事例を見ていても従量課金を採用しているケースは多いように見受けられます。
従量の対象も、動いている AI Agent の数 ( ≒ 自動化する業務の広さや AI の精度・品質など) なのか、Agent が費消する Token ベースなのか、それら両方なのかという問いもあります。あまり細かくやりすぎると顧客が予算管理しづらかったり、ユーザが実感できる効用と請求単位が感覚的に一致しなかったりという弊害も想定されるので、これから各社が塩梅を見つけつつベスプラに収斂していくのかなと思っています。
またこれは estie がいる不動産業界ならではかもしれませんが、不動産は売買、賃貸ともに動く金額が非常に大きく単価が高いため、比較的コスト回収しやすいマーケットと言えると考えています。
セミパブリックデータのお話興味深いのですが、具体的にどのようにして集められていますか?プライベートデータをたくさん集めていく中で、共通化したものが見つかるのか、全く別の方法なのか知りたいです。
この点は estie のコアに関わる部分のため回答がしづらいですが、50件以上のデータソースやデータパートナーと連携して実現しております。そういった方々へ様々なかたちでリターンを返しており Win-Win な関係性を構築しそれを積み上げることで実現しています。
一足飛びでできることはなく、長い時間をかけて泥臭く日々リソースをかけてやっているかたちと言えます。
会社としてまだ注力できていないが、個人として今後可能性を感じるところはどんなところですか?
AI がプロダクトに溶け込んでいくなかで、どのような UI になっていくのかは再定義されていくのではないかと思っており、またこれが一時的には競争優位性になるポテンシャルがあるのではないかと感じています。
先日も CPO 協会コミュニティ会でデザインをテーマに議論していましたが、自然言語で入出力をするインターフェイスは何を聞けば良いか分からなかったり、どんな質問に対しても回答精度を担保するかたちで出力することが難しいので、意外とハードルが高いのではないかという議論がありました。
その一方で音声入力は現時点でも精度が高く楽なのでプロダクトによってはハマるのではないかと可能性の言及がありました。
不動産業界では必ず地図インターフェイスが必要ですので、入出力ともに地図をどう絡めるのかは不動産 Vertical の estie としては解きがいのある面白いテーマだなと思っています。
おわりに
いかがでしょうか。一気にご質問に回答してきました。
estie では AI に関する新しいプロダクトつくりが既に始まっており、大きな構想もあります。
ぜひ興味をもった方はカジュアル面談でお話しましょう!
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