Vertical SaaS の PM が 生成 AI を駆使すべき理由 - 現場での事例を添えて -

こんにちは。プロダクトマネージャーのyuiです。

この記事は、estieのプロダクトマネージャーによるブログシリーズ「PM Blog Week」第5弾 3日目の記事です。(過去の PM Blog Week の記事は こちら

はじめに

PM の皆さんは業務でどれくらい生成AIを使っていますか?またどのように使っていますか?

私自身は最近自分の業務と並行して朝から晩まで裏で何かしらのタスクを生成AIに投げまくるという過ごし方をしており、その中で生成AIなしの生活には絶対に戻れないなという気持ちになっています。

そんな中で、私が特に Vertical SaaS の PM は 生成AI を駆使すべきと思っている理由と、自分の経験に基づいた生成AIとの向き合い方やどうやって仕事のパートナーにしているかなどをご紹介します。

Vertical SaaS の PM が生成AIを駆使すべき理由

Vertical SaaS は暗黙知の世界だから

PM の重要な仕事の一つは暗黙知を言語化してチームの目線を揃えることです。プロダクトチームの中でユーザーに一番近い PM 自らが目線を揃えにいかないとユーザーのニーズを満たすプロダクトを作ることはできません。(少なくとも estie では PM がその役割を担っているので、その前提で書いています。)

特に Vertical SaaS では、PMがこの言語化を行う重要性が Horizontal SaaS よりも高くなります。なぜなら、Vertical SaaS が対象とする業界特有の商習慣、暗黙のルール、現場でしか分からない課題は、インターネットではなかなか情報が出てこない暗黙知の世界だからです。

この情報の非対称性こそが、Vertical SaaS の PM にとって生成AIが特に強力なツールになる理由です。

Vertical SaaS の PM は、業界の暗黙知の海の中を泳いでよりよい問いや答えを探す必要があります。

顧客との会話から得た断片的な情報を、自分の中で咀嚼し、言語化し、チームに共有する。このサイクルを何度も高速で回すことで、徐々に解像度が上がっていきます。しかし、Horizontal SaaS と違い、参照できる既存の知識体系が少ないため、このサイクルを回す回数が圧倒的に多く必要になるのです。

ここで生成AIが力を発揮します。頭の中にある暗黙知を言語化する反復プロセスに生成AIを使うことで、思考と言語化のプロセスを高速に回すことができます。

言語化は思考をシャープにしてくれる上に、一度言語化された知識はその組織の資産になります。生成AIを言語化の戦略的パートナーにすることで、頭の中にあるまだ言語化されていない知識を、数秒で構造化されたドキュメントに変換できます。

現在、ある領域で新規事業探索を行っているのですが、本でもインターネットでも学べなかった業務をお客さまに数時間ほどヒアリングしつつ、業務フローのドキュメント化や業務のモデリングのドラフトを生成AIとの対話を通して数時間で作成し、社内で議論したり、可視化したドキュメントをお客さまに当てて認識を合わせ、ブラッシュアップを行うといったことができました。

生成AIがなければここまで高速に言語化・構造化のプロセスを回せなかったのと、お客さまと何度か話す中でも早い段階で同じものを見ながら会話することができ、探索のプロセスを高速化・効率化できたと思います。

ちなみに、使う人間の能力以上のアウトプットを生成AIには出せない(= 生成AIのアウトプットには自分の能力のキャップがかかる)というのはよく言われることですし私もそう思いますが、生成AIと対話することで自分の思考を深めることは多分にできるし、そういうプロセスにこそ生成AIを使うべきだとも思っています。

知らないことに早く気づける

生成AIと対話することで、自分の理解の穴に早く気づけます。具体的には以下のような気づきを得られます。

  • 要件定義しきれていないこと
  • 理解が表面的にとどまっている部分
  • 業務の深掘りが足りない部分

実体験として、顧客との会話を通してプロダクトのイメージが湧き、顧客から聞いたことやそこから考えたことをそのまま生成AIに投げてプロトタイプを作らせたところ、思ったものとは全然違うものが出てきました。そのギャップを埋めるために、不足していたドメイン知識を追加したり、プロンプトを試行錯誤したりする中で、「自分自身がこれまで言語化できていなかったこと」や「最初の状態では他者(ここでは生成AI)と全く目線が揃っていなかったこと」に気づくことができました。

通常のプロダクト開発でも、エンジニアに作ってもらってみて初めて要件の詰めが甘い部分に気づくことがあると思いますが、このプロセスをまずは生成AIに任せてみることで、その気づきを圧倒的に早く得られます。これにより、「やること/やらないこと」をシャープにした状態でエンジニアやデザイナーとの議論を始められ、現場の大きな手戻りを未然に防ぐことができます。

生成AIと対話するときの心構え・ポイント

粗い状態でもよいので積極的に対話する

PM に求められるスキルのひとつに、答えのない中で何度も問いを立て直し、仮説や理解を深め、目標への打ち手の量と質を上げることがあります。

この反復的な思考プロセスを生成AIを使うことで高速に回すことができます。

人間とのコミュニケーションの場合は理解が粗すぎる状態で壁打ちするのは気が引けてしまいますが、生成AIに対しては理解が甘い状態でも気兼ねなく対話を始めることができます。

断片的でもいいので生成AIと積極的に対話し、コンテキストを与えるプロセスを繰り返す中で自ずと言語化が進みます。また、自分の中でそもそもこれまで言語化できていなかったことや理解が甘い部分、業務の深掘りができていなかった部分に気づき、よりよい言語化のためのプロセスを回すことができます。

最近も新規事業のPoCで、以下の流れで、ノーコードでバックエンドを含む簡易アプリケーションを作り、その画面の動きをお客さまと一緒に見ながら業務の課題感が特に強い部分を引き出すというアプローチを行っていました。

  1. ChatGPTと対話しながら
    1. 業務フローを整理
    2. MVPを言語化
  2. Cursorを使って
    1. アプリケーションの設計
    2. 実装計画を立てる
    3. 計画的に実装を進める
    4. 実装されたアプリケーションを動かしながら改善計画を立てる

  → このフローを回しながら要件や機能をブラッシュアップする

答えを急がせない / たくさん質問してもらう

生成AIに答えを急がせないのもポイントです。ユーザーである私たち自身も、最初から100点のプロンプトを書くことはできません。まずは生成AIに欲しいアウトプットは何かを提示した上で、よりよいそのアウトプットのために足りない前提があれば質問させたり、生成AIに深く考えさせるためのプロンプトにすることで生成AIの思考も自分の思考もより深いものにすることができます。

このプロセスでは、生成AIを単なるアウトプット高速化のツールとするのではなく、暗黙知を言語化する反復プロセスのパートナーと位置付けるのがポイントです。

アウトプットが悪い場合に原因を考える

最近自分の中では "生成AIマネジメント" という言葉を使っているのですが、誰とどのようにコミュニケーションを進めるとよりよい議論が生まれるか、それがこの人だったら、このチームだったら、と考えるのと同じで、生成AIに対してもそれがどのようなルールやプロセスで動き、どのようにマネジメントするとよりよく働いてくれるのかを学ぶ、知ることはとても重要だと思っています。

最近もCursorを使ってアプリケーションを作ろうとしていたときに、必要な要件のみを伝えてもなかなかよいものが上がってこなかったところを、以下を意識するだけで劇的によいものが上がってくるようになりました。

  • Cursor Rules の機能を使って設計やUI/UXのガイドラインを作る
  • よく考えさせる
  • 先に設計させて認識合わせを行う
  • 実装を計画的に行わせる
  • コンテキストサイズを意識してプロンプトを切り替える

アウトプットが悪かったときに「生成AIってこんなもんか」と思って使うのをやめてしまうのはもったいないです。生成AIの進化の早さに負けずに使う側も学び続けることで生成AIを使うことの価値を最大化できます。

また、生成AIをただのツールと捉えずに、同僚だと思ってきちんとコミュニケーションを取ることが意外と重要なんじゃないかと思っています。

まとめ

Vertical SaaS の PM にとって、生成AIは単なる効率化ツールではありません。業界の暗黙知を、高速な反復を通じて言語化し、組織の資産に変えていくための戦略的パートナーです。

生成AIを使うことで、Vertical SaaS 特有の「答えのない問いに向き合い続ける」プロセスを、これまでにない速度で回すことができます。その積み重ねが、プロダクトの競争力、ひいては組織の競争力につながっていくと信じています。

おわりに

estie には 生成AI を駆使しながらプロダクトマネジメントを行い事業を推進できる機会がたくさんあります。

このブログを読んで、estie のプロダクトマネジメントをもっと知りたいと思った方はぜひ estie の PM に会いにきてください!

11/11(火) に開催する estie PM meetup #6では、estie同様、深いドメイン知識が求められる各企業のプロダクト責任者の方々からお話を伺い、ドメイン知識の壁とその突破法について徹底議論します。

【登壇企業様】

  • SORABITO株式会社(建機レンタル会社・建設会社)
  • 株式会社ヘンリー(医療機関)
  • 株式会社Shippio(物流)

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懇親会もあるので、ブログには書けなかったより深い話をぜひお話しできればと思います。

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