
はじめに
どうもこんにちは。2025年 8月から VPoP になった勝田です。前職でも estie でも PM と Bizdev をずっとやってきています。プライベートでは相変わらず「ずとまよ」を追いかけ続けています。
さて、この記事は、estie の PM によるブログシリーズ「PM Blog Week」第5弾の 最終日の記事です。
(過去の PM Blog Week の記事は こちら )
AI 時代の新しい競争優位性はなんだ?
X でも仕事でも AI に関する話題を聞かない日はないですし、恐らく多くの方が日常業務に AI を活用することが当たり前になっていると思います。提供するプロダクトのなかにも AI が組み込まれたり、AI がコア価値となったプロダクトに作り変えられたりと発展が目覚ましいです。
さて、このように AI が当たり前になるなかで、プロダクトの競争ルールが少しずつ変わっていくのではないでしょうか。プロダクトに AI を組み込んでいるだけでは早晩、差別化が図れなくなるでしょう。
では AI 時代の新しい競争優位性 ( MOAT ) はなんでしょうか。
そのお題について CPO 協会が主催する Product Leaders 2025 というイベントにて、「AI × 価値創造最前線 -顧客価値/M&A/Vertical Data Moat」というタイトルでパネルディスカッションに登壇してきました。そのとき、私のアンサーが想像以上に会場全体から反響がありましたので、その話をしたいと思います。
Semi-public data という概念
AI 時代の新しい競争優位性、それは Semi-public Data の質・量ではないか、という話を提唱したいと思います。これは特に特定ドメインに特化した Vertical SaaS ではより当てはまると思います。
まずはじめに前提として、estie ではデータを、
- Private data
- Semi-public data
- Public data
の 3種類に分けて整理しています。
Private data は顧客自身が保持する守秘情報です。契約内容や機密情報が該当します。基本的に社外に出されることがないデータであり、自社業務を行う際にのみ利用されます。
Public data は一般に流通しておりインターネットでアクセスできる情報です。Private data と逆の概念になります。不動産業界においては国交省が公開しているオープンデータなどがあります。実は様々なデータが国によって整備・公開されており、誰でも駅別の乗降客数、ハザードマップ、土地の用途を定めた用途地域、土地の価格を表す地価公示など様々なデータにアクセスすることが可能になっています。
そして最後に Semi-public data とはその中間に位置するものです。一部の業者間でのみ流通していたり、インターネット上にはないが情報交換されている類のものになります。estie が最も力を入れて収集しているものです。
例えばオフィスの賃料データはこれに該当します。オフィスビルの賃料データは構造上の理由で住宅と異なりインターネット上で流通するケースはほぼなく、ビルのオーナーと仲介会社の間でのみ PDF データや口頭でやり取りされているケースが多いです (このあたりの詳細はぜひカジュアル面談で聞いてください)。
また住宅の賃料データはインターネット上に掲載されており一見すると Public data に思えるかもしれませんが、それは現在募集中のもののみが対象であり、入居中の部屋の賃料は Semi-public data に位置づけられると言えます。
| データ種別 | 概要 | 具体例 |
|---|---|---|
| Private data | ・顧客自身が保持する守秘情報 | ・契約内容や機密情報 |
| Semi-public data | ・一部の間でのみ流通していたり、インターネット上にはないが情報交換されている類のもの | ・オフィスの賃料データ ・住宅の入居中(募集されていない)の部屋の賃料データ |
| Public data | ・一般的に流通しておりインターネットでアクセスできる情報 | ・国交省が公開しているオープンデータなど |
なぜ Semi-public data が重要なのか?
前提として、Semi-public data だけでなく、全てのデータが重要です。
データはあらゆる業務で使われています。例えば不動産会社であれば自社が所有・運用・受託・仲介している物件に関するデータが挙げられます。自社のデータを集計する業務は各業界にも当然にあると思いますが、不動産会社では、自社の物件一覧を作成し、賃料収入の合計値を算出し、自社の物件ポートフォリオを可視化するという業務があります。この業務は、自社のPrivate dataだけで完結するものです。
しかしその賃料収入が市場のトレンドと比較したときに適切な立ち位置にいるのかを評価したいときは、自社以外のデータ、すなわち Semi-public data や Public data と比較する必要が生じます。
| パターン | 具体例 | |
|---|---|---|
| 1 | Private data のみで完結 | 自社の物件一覧を作成し賃料収入の合計値を算出するという業務 |
| 2 | Private data VS Semi-public data | その賃料収入が市場のトレンドと比較したときに適切な立ち位置にいるのかを評価する |
AI を通じて様々な業務を改善する機会が一気に広がったと思いますが、広がれば広がるほど、Semi-public data が必要なシーンは多くなるはずです。
例えば、自社物件の稼働率が下落傾向にあった場合、これが市場起因なのか自社起因なのかを切り分けないと打ち手を大きく間違える恐れがあります。このとき自社物件の近隣エリア全体の稼働率がどうなっているかを比較したいというユースケースがあります。このとき、ユーザが簡単にそのデータにアクセスできると一気に利便性が上がるはずです。つまり、Semi-public data をすぐに使える状態で持っていることがユーザに求められるため、競争優位性として成立するのです。
そしてもう 1つの側面として、Public data も Semi-public data も、活用できる状態に整えておくことは実はそれなりの難しさがあります。出典元によってカラムの定義や意味合いが異なるものを 1つのスキーマにまとめる必要がある、というだけでもそれなりに大変そうという感覚が伝わるのではないでしょうか。
下の図は実際にあったデータです (数値はダミーデータです)。エクセル上でセル結合されているだけでなく、様々なオブジェクトがオーバーレイされておりそれ自体に意味を持っていたり、税抜 / 税込を 1つのカラムで管理せず 2列で表現されていたりと非常にユニークです。これを予め整形しておくだけでも大きな価値になります。

大量データを持つ Big tech には勝てないのか?
競合は同じ業界内にしかいないわけではありません。過去の歴史からみても Platformer の立ち位置だったはずの Big tech が突如として競合化することは繰り返されてきました。例えば飲食店や美容院のポータルサイトにとっては Google Maps が競合だったでしょう。
思考実験として、Open AI や Google が金融、人材、会計、労務、そして不動産など特定ドメインに特化した AI Agent をパッケージとして揃えてきたことを想像してみます。
先ほどの例と同じく、会社 HP の URL を入力するだけで自社が所有する物件一覧を作成し、賃料収入の合計値を計算する AI Agent は案外簡単にできそうですし、実際にやってきそうな気がします。つまりその業務の効率化だけを価値としていると淘汰される恐れがあります。
一方で、市場トレンドと比較する際はどうでしょう。
AI は Deep research を使って市場の賃料情報を収集することはできるかもしれませんが、最新情報には弱かったり、現在インターネット上にない情報 (過去に募集していたが今は募集していない物件の情報) はアクセスしづらく、この業務では価値を発揮できない可能性が高いと見ています。
このように、Big tech に対する競争優位性を維持する意味でも、Semi-public data を持つことは重要なのではないでしょうか。
まとめ AI 時代の新しい競争優位性として Semi-public data の重要性を語ってきました。
そして estie は創業以来、ずっと不動産に関するデータの獲得と整備に力を入れてきました。
これ自体も大きな価値を持ち急成長してきましたが、AI 時代にはさらにこれが大きな意味と価値を持つのではにないかと思いますし、これを活かすプロダクトつくりの機会が多くあることを想像すると、非常にワクワクしています!毎日、進化と発見があり、刺激的で楽しいです。
おわりに
11/11 (火) に開催する estie PM meetup #6 では、estie 同様、深いドメイン知識が求められる各企業のプロダクト責任者の方々からお話を伺い、ドメイン知識の壁とその突破法について徹底議論します。
【登壇企業様】
- SORABITO株式会社(建機レンタル会社・建設会社)
- 株式会社ヘンリー(医療機関)
- 株式会社Shippio(物流)
懇親会もございます。当日会場で、ブログには書けなかったより深い話をお話できることを楽しみにしています!