募集要項刷新の副業で見えたEM・事業部CTOの役割

こんにちは、estie (エスティ) で副業をしている新田 (しんでん) です。エンジニアは様々な働き方が広がり副業の人でも会社のブログを書くことも増えてきたように感じますが、副業の人が会社の募集要項を書くことは珍しいと思うので、ブログを書くことになりました!

この記事では2つのことをお伝えしたいと思います。

  1. 外部の人が募集要項を書くことで分かった発見
  2. 募集要項のCTOやEMの職の定義を深堀りした中での独自の解釈

仕事の依頼

私はキャリアブレイク中です。現在は未就業で、次の仕事で何をしたいかを検討する期間を取っています。とは言え収入が0なのも心配ですし、副業を通して良い会社を知る切っ掛けになるかもしれないと考え、短時間の副業案件を募集していました。そのタイミングで estie CTOのNariさんが毎月開催している会があり、CTOやEMなどのエンジニアが集まって、事前トピックはなしでその場の話をする「雑な会」を通して仕事のお話をもらいました。

業務として受託した仕事は2つです。

  • 事業部CTOとEMの募集要項の刷新
  • このブログの執筆

後者の仕事はこのブログの内容になるため、今回は前者の内容を進める中での気づきを紹介をしたいと思います。

トピック

  • 外部の目線で見ることで足りない情報に気がつく
  • 募集要項のページだけで情報を完結させずに全体で設計して伝える
  • 少し未来の状態が候補者への期待役割だからこそ、少し先の未来を具体的に伝える
  • estieが求めるEMは深いEM。「弱いEMと強いEM」と「深いEMと広いEM」の独自の解釈
  • estieが求める事業部CTOは本当にCTOだった。コンパウンドスタートアップ実現の体制

少々盛りだくさんですが、順番に説明できればと思います。

前提となるestieの現状

estieの目指す事業や組織についてはこちらの記事を参照してください。先に記事を読んでいただければ、この記事の理解がしやすくなります。

estieのWhole Product構想

estieの組織

  • ※この取り組みの中で情報公開ができていないことを指摘したため、後日新たな記事の公開を予定しています。

募集要項の刷新に向けてやったこと

3つのステップで進みました。

  • 必要な情報のすり合わせ
  • 各ポジションのヒアリング
  • 新しい募集要項の作成

募集要項を書くために必要な情報のすり合わせ

まずはゴールイメージが揃わなければ、価値のある成果に繋がりません。これまで掲載していた募集要項が悪いわけではありません。より良いものを作るときには、今ある募集要項の結果の状態だけをみて理解するのではなく、作る過程での前提となっていたこと、意識していたこと、課題などを理解する必要があると考えました。

そもそも私はestieのことを詳しくは知らないため、前提となる情報が必要です。今回の募集要項を作成するポジションである事業部CTOとEMのポジションに期待する役割、この肩書きの人が会社の中でどのような仕事をしているかを知る必要があります。次に、estieの現状、将来の事業、事業を実現するために必要な組織、そして未来の組織の中で事業部CTOとEMに期待される役割を理解します。

採用はあくまで未来の事業や組織のために行っていて、現時点の事業や組織の中にいる人物ではありません。そのため、企業として現在の状態を伝えるだけでなく、未来の状態を伝えることも私は大切だと考えています。

そして、現状の組織と新しい組織のギャップこそが採用のポジションになっているはずです。しかし、変更前の募集要項では組織の状態の変化を理解するための情報が少なく、事業のビジョンの解像度と比べて職務として組織を推進するにあたっての組織像の解像度が理解できないという印象を持ちました。

そこで、新しい募集要項では、「現状の事業の状態→目指すビジョン」がある今の状態にプラスして、その中間に「直近で実現したい事業の状態」をイメージできるようにしたいと考えました。次に「直近で実現したい事業の状態」を実現するために「現状の組織」と「必要な組織」のギャップがあり、それを担う人こそ今回のポジションに期待する役割になる形で表現したいと考えました。そして、今回募集するポジションは技術の切り口で組織運営をするポジションであるため、事業・組織・技術を伝えることと、採用者に期待する役割が実現する近い未来を伝えられると良いと考えました。

まずは現在の募集要項を見て、感じた所感などをディスカッションしながら、新しい募集要項の方向性を確認していき、自分が完成イメージを想像するために足りない情報をディスカッションしながら理解していきました。


よくある募集要項は現在の情報 + 事業ビジョン に終始することも多く感じます。役割が明確で多数の社員を採用する場合は良いですが、責任が広いポジションの場合、候補者から見るとポジションへの期待が理解しにくいことがあります。そして、スタートアップの場合は状況の変化量が大きいので、過去の経緯と現在の差分から想定される変化の大きさを伝えることで変化のイメージを持ってもらい、未来に起こる変化に対して楽しみを感じる人に来て欲しいと考えました。つまりスキル面の必須条件だけでなく、マインド面から見たときに必要な伝えるべき条件の具体度をイメージしました。


今回のポジションは技術を切り口にしつつ、組織を見る役割のポジションであるため、組織の詳しい説明が必要と感じました。どれくらいの人数を率いるのか、どんな成長をするのか、組織の課題は何かを伝える必要があると考えて数値を入れました。必ずこの数字になるわけではないですが、組織としてのサイズ感が伝わるはずです。

募集要項の各ポジションのヒアリング

概要の方向性を整えつつ、具体的な事例を聞きながら解像度を高める機会を作ってもらうことができました。話を聞く中で色々なポジションの方々から過去の役割の成り立ちや考え方、実際にやっていることなどを聞いて具体的な感覚を理解します。

みなさん優秀なのに謙虚で素敵で、スタートアップの不確実な環境の中で役割が変化しても柔軟に対応しながら推進されていて、大変なこともあると想像しつつ楽しんでいると感じました。

今回のポジションは組織を見るポジションのため責務を持つ領域が広く、理解が難しいポジションです。ヒアリングを通して、募集ポジションではどのような期待をされていて、どんな権限を持っているのか、実際にどんな活動を行っているかなどを聞きました。また、マネジメントに加え技術的な力も必要なポジションでもあるため、どのような技術理解の深さが必要で、どのように活用しているか、技術的に必要な理解度や活用範囲の理解を深めて行きました。

新しい募集要項の作成

必要な情報が揃って完成の方向性を合わせたら、実際に募集要項の項目ごとに要素を書いていきます。私の意識したポイントは以下の通りです。

  • 事業・組織・技術のポジションへの期待が想像できるように、現在の状況だけでなく少し先の未来を伝える
  • 大きい小さいなどの具体性を理解してもらえるように人数規模やその変化を数値で伝える
  • 事業の話だけでなく、技術や組織の内容も充実させる
  • 技術のマネージャはどの程度の技術が必要か伝わるように輪郭を意識して表現する
  • 全ての情報を募集要項に書ききることは難しいため、事例などの記事へのリンクを貼ることで解像度が高まる補完する情報の導線を作り、説明が足りない情報を補う設計にする

これらの内容は事前に具体的な言葉を使いながら設計レビューの認識合わせをしてから項目のドラフトを作成しました。項目ごとのレビューをした後は、全体の清書はCTO (Nariさん) にお願いして、逆レビューをさせてもらい、公開となりました。

今回の仕事での気付き

社外の人に募集要項を作ってもらうこと

良さ

  • 会社を知らない人が見たときにフラットな視点で募集要項を見ることができる
    • 社内の人では当たり前になっている単語が分からなかったりする
    • 抽象度と具体度の調整をするときにフラットな視点の方が調整しやすい
  • 会社にない新しい知識を組み合わせて作ることができる
    • 新しい情報からアイデアが生まれる
    • 今までの工夫と組みあせて新しい表現や施策を作ることができる

難しさ

  • 社内のことが分からない
    • 募集背景を理解し切ることは難しく、最後は社員の人にチェックと仕上げをしてもらう必要がある
    • 分からないことが多いため、前提の理解に時間が掛かる
  • 多くの前提知識が必要
    • 技術的知識の部分をカバーしただけで書けるものではない
    • 事業戦略を落とし込んだ組織戦略を募集要項の文章に落とし込むには「エンジニアの経験」と「採用の設計の経験」「マネジメントの広い範囲の経験」が必要

外部の人に募集要項を書いてもらうと気づきもあって良い面もありますが、求められる領域の広さの難しさもあるため、副業人材の中で期待するスキルを持つ人を探して依頼する難易度は高い印象です。依頼側の難しさと受ける側の難しさがあるため、マッチすることが難しいと感じます。今回は依頼する人がCTOだったこと、受けた自分がエンジニア採用やエンジニア組織マネジメントを経験していたため短時間でも形にすることができたと感じます。エンジニア特有の文化や価値観の表現が難しいため、表現しきれていないと感じることも多く、工夫の余地が多くあるのでやってみる価値はあると感じました。

EMの定義と役割

estieで求められているエンジニアリングマネージャ(以下EM)は深い役割のEMです。

EMの役割は各社によって違います。estieで求められているEMは少人数チームの中で活動し、必要があれば実装も行うEMです。技術的な意思決定をするにはコードの状態も理解できる必要があると考えられています。

ここで出てきた「深いEM」を詳しく説明したいと思います。

まずは日本でEMの理解を大きく進めた (と個人的に思っている ) 広木大地さんのEMの記事のまとめでは「強いEMと弱いEM」の定義がされています。私はこれを「広いEMと深いEM」と呼びたいと考えています。

今までのマネジメントを大きく4つの領域 に分け、どの範囲を担当範囲とするかによって「広いEMと深いEM」を呼び分けていると理解しました。4つのマネジメント領域とは、ピープルマネジメント、テクノロジーマネジメント、プロジェクトマネジメント、プロダクトマネジメントです。


EMに期待するカバー領域の広さは、弱いEMはピープルマネジメントとテクノロジーマネジメントの一部。強いEM定義はピープルマネジメント、テクノロジーマネジメント、プロジェクトマネジメント、プロダクトマネジメントの広いマネジメント領域に広がっています。

これに対して、私が「強い」「弱い」の言葉から感じる印象から、EMの能力なのではないか?と整理しました。つまり、強いから「広い領域が見れるEM」と「狭い領域しか見れないEM」がいると解釈していました。広い領域は能力の高いEMしか見ることが出来ないため、能力の不足しているEMではキャパオーバーになってしまう。


しかし、そもそもEMとして十分な能力を持っていて、深く力を発揮するか、広く力を発揮するかの違いなのでは?と考えました。つまり、上の図で表の「弱いEM」はEMの志向性が高い「成長中のEM」なのではないかと考えました。


言葉から受け取っていた「強い」「弱い」は能力として解釈して、力の発揮の仕方を「広い」「深い」とすることで、自分の中でEMの役割の解釈が腹落ちしました。

よくよく広木さんのQiita記事を読んでみると、実は図の中で弱いEMの表現は深くなっています。文章での説明では触れられていませんが、深くマネジメントするEMと広くマネジメントするEMで意図は間違っていないような気がします。つまり、言葉から受ける印象から私が誤認していただけで、最初から狭いが深い領域をカバーするEMと広いが浅くマネジメントするEMでした。

エンジニアリングマネージャ/プロダクトマネージャのための知識体系と読書ガイド より引用
弱いと強いの表現を使うと能力の上下をイメージしてしまうため、これを機会に私は「強いEMと弱いEM」ではなく、「広いEMと深いEM」と呼びたいと考えています。

そして、estieのEMは「深いEM」を中心に開発を行っています。さらなる事業の推進のために深いEMがもっと必要になっています。EMに期待されることは単純に並行でチームが増えるだけでなく、必要があれば違った形のEMの可能性もありそうです。EMの役職に期待されることは範囲が広いケースも多いからこそ枠に閉じず、最もチームの成果に効果的な取り組みができることを求められていると感じます。

コンパウンドスタートアップの事業部CTO

estieの事業部CTOに期待する役割はスタートアップのCTOと変わらない強さが求められていました。

最初は全社のCTOがいる中で、事業部CTOの権限は小さくなってしまう部分があるのではと思いましたがそんなことは全く無く、高いレベルでCTOの力を発揮することが期待されていると感じました。

コンパウンドスタートアップでは複数事業を立ち上げるため組織も大きくなります。組織が大きくなる中で、全社の横断領域と各事業領域を同時に理解する解像度は低ならざるを得ません。両方の理解を維持しようとするために、質の低い意思決定しかできなくなっては問題ですし、優先度の高い課題が多く発生した領域を絞っては対応が間に合わなくなってしまいます。この課題に対して、早期に体制を計画していると理解しました。

estieのブログにこの体制の元になる考え方の記事が公開されていて、以前に読んだことがありました。組織づくりに「死角のない組織」が語られており、この考え方をベースに良い組織を作るための先手を打っているのだと感じました。

プロダクトマネージャーは「組織の視力」を把握しよう より引用
つまり、事業部が最大スピードでスタートアップの変化に対応し、成果を最大化したい場合は組織全体のことを考える人と事業に集中して考える人を分けたほうが良いという考えです。つまり、事業単体で言えば実際にCTOとして推進する力が必要になります。つまり、技術の切り口での経営的な視点で推進する役割と裁量があるということです。

色々な話を聞く中で思い出したのですが、私が以前勤めていたメルペイもメルカリグループの中にメルカリ・メルペイ・ソウゾウの各社にCTOが居て事業を推進していました。スタートアップが複数の大型の事業を進める場合には1つの良い方法なのかも知れません。コンパウンドスタートアップの事業を推進する1つの選択肢の形を検討してみても良いかも知れません。

今回出た施策アイデアの今後の予定

今回の仕事の結果になる募集要項のページの更新に留まらず、候補者から見た時に足りていないと感じた情報を整理し、ブログや施策と組み合わせて事例などが発信されます。

事業部CTOやEMといった役職について各社の期待は異なる傾向にあるため、estieのもっと具体的な情報をお伝えしていきたいと考えています。

仕事の感想

このような形で仕事を受けたのは初めてでしたが、私の今までの経験をフルに活かして取り組み、楽しむことができました。ハイキャリアのエンジニアを探しているからこそ、エンジニアが大事にしたい観点から事業を目指す状況について精度を高く伝える必要があり、その難しさを整理した上で表現に落とし込めました。

その中で知ったestieでポジションの面白さに、期待の大きさ、裁量の大きさ、仲間の強さ、チャレンジする事業の大きさ、など様々な面白さがあることを理解できました。

この仕事を通して、改めて事業や組織を見るエンジニアの役割を深く考える機会になり非常に楽しかったです!このような面白い取り組みができる会社で、私を副業人材としてこの機会に選んでもらって感謝しています。ありがとうございました。

事業も組織も技術も非常に面白いことが多い会社だと改めて感じます。みなさんにも興味を持ってもらえたら嬉しく思います!

最後に

事業部CTOやEMに興味がある方、せひカジュアル面談に応募していただき、CTOやEMともっと詳しい話をしましょう!

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