エンジニアリングマネージャーのやるべきこと!

【プロフィール】田村 祐樹(たむら ゆうき)
1979年生まれ。ネバーランドカンパニーにてゲーム開発に従事。gumiにて技術担当執行役員CTOに就任し、ソーシャルゲーム開発を牽引する。
その後、ディライトワークスにてFGOをはじめとしたスマートフォンゲーム開発を担当。直近ではSmartNewsにてEMを務め、その後、不動産テックのCTOに着任。
2023年9月よりestieに参画。2024年2月に事業部CTOに就任。

エンジニアリングマネージャーの仕事といえば一言で言えば何でしょうか?
マネジメント? 1on1? ミーティングにでること?

違いますね。
そう、マネージャーの仕事は「マネージャーのアウトプット=チームのアウトプット+影響を与えた他のチームのアウトプット」ですからこのアウトプットを最大化することです。
(かの有名なアンディ・グローブの定義を持ってきました)
このアウトプットの影響範囲が広がれば、それは「組織のアウトプット」とも言い換えられるでしょう。
では、そのためにするべきことはなんでしょうか?

「1on1」「PdMとの仕様決めミーティング」「ドキュメントを書くこと」「メンバーの採用、育成、評価」「CTOへの報告」「コードを書くことやシステムのレビュー」「新しい機能に対する相談」「非エンジニアとの対話」などなどなど……。(以下無限に続く)

ここには書き切れないほど無数の仕事が存在します。
では、そもそも何から始めるべきなのでしょう?

私たちは無限の時間を持ってはいないので、無限のことをすることはできません。
たくさんの会議をこなして「今日も疲れたなー」と思っていると何も成し遂げないまま、あっという間に1年経っています。
要するにマネージャーに求められることをうまくこなしていくには「時間をうまく使うこと」が不可欠です。
ですが、そう思いながらも忙殺されているマネージャーは多いのではないでしょうか?
そんなときのために、私が今まで10年以上マネジメントをやってきて効果的だと感じているやり方を紹介します。

1ヶ月ごとにカレンダーを振り返る

多くの場合、マネージャーのカレンダーは様々な予定で埋まっています。
(もし「暇だ、暇だ」と言いながら大きな成果をあげているマネージャーがいたら、それは凄いことです)
もしあなたがマネージャーだとしたら思い返してみてください。情報共有の会議に招待され、それに出て、面接をして、1on1をしているだけで一日が終わっていませんか?
もしあなたがマネージャーでない場合、マネージャーやVP、CTOのカレンダーをそっと盗み見てみましょう。
1日中、ビッシリ予定が埋まっている、なんてことは珍しくありません。
非公開の長いブロックがあればそれはマネージャーやVP陣の集まった重要そうなMTGか、面接の予定かもしれません。

他にも様々な理由で日々の時間を消費していることは疑いようがありません。
このようなビッシリと埋まったカレンダーの予定をこなしていくと仕事終わりには達成感すらあるくらいです。「今日も一日頑張ったなー、明日も面接が4つあるが頑張ろう!」と。
でも、本当にそれで良いのでしょうか?
本当にやるべきことはできていますか?
チームのアウトプットを最大化しましたか?

このような「忙しい=やりきった」という日々のループを抜け出すためには、常に過去1ヶ月から3ヶ月のカレンダーを振り返って、「何にどう時間を使ってきたか?」をきちんと理解するべきです。
過去に使ってきた時間はこれからの1ヶ月から3ヶ月で使える時間に等しい筈です。
すると、振り返りから「これから先に使える時間とできること」が見えてきます。

そして、自分に問いかけましょう。
「この3ヶ月でやってきたことは本当に意味のあることだったか?」と。
毎日が忙しく、目の前の仕事をこなすことで充実感があるのだとしたらその時間の使い方は間違っているかもしれません。

やらないことを決める

「やらないことを決める」というのは非常に重要なことです。
もし出ても意味が無いMTGがある場合、勇気を出して言うべきです。
「必要ないと思うので、このMTGにはでません」とか、「このMTGのゴールはなんでしょう? 続ける意味が本当にあるのでしょうか?」といったことです。
急成長している組織は様々なことが変わっていくにも関わらず、なぜかMTGだけは継続して続けられがちです。
「招待されているから」「以前から続けているから」「CTOが言ったから」という理由で会議に参加してはいませんか?
この何も発言せず内容も憶えていないMTGの1時間があれば何かができたのではありませんか?
もちろん、意味があるMTGなら良いのですが誰かが「やめよう」と言わなければ無くならないMTGもあります。
こうした意味の無いMTGを無くし、チームや組織の時間を有効活用するのもまたマネージャーに必要な仕事です。

多くの人が参加する会議に招待されて発言することや、他の人から「必要なので」と言われることは、あなたの自尊心を満足させてくれるかもしれませんが、同時に多くの人の時間を奪っていることも忘れてはいけません。
マネージャーやVPが雁首を並べて何も決まらないような会議をやっているようでは多くのことは成し遂げられないからです。
「出席に価値がある」「自分がいないところで重要なことが話されていたら怖い」と感じているなら、恐れを捨ててMTGを抜けましょう。
もし誰かに参加を強要されているが「意味が無い」と感じる場合は、そのMTGにかける労力を最小化し時間の浪費を避けなければなりません。そして、いずれそのMTGを止められるように動くべきです。

短期の成果と長期の成果を区別し長期の成果にコミットする

次に短期と長期の成果のバランスをとるようにします。
担当する責任範囲が広がるにつれ、EMはより近視眼的になります。
なぜなら、会社(特にスタートアップ)は直近の成果を出すことを強く求めてくるからです。
「短期の成果を出せない=高い評価を得られない」となり「短期の成果を頑張る=中長期にコミットできない」ということになるというジレンマを常に抱えています。

たとえ、マネージャーは最終的には短期的に報われない(=評価されない)としても、長期での成功を優先しなければなりません。
そうでなければ、てこの原理を使って「複利の効果」を生み出すことはできなくなり、いずれ何らかの理由で組織かビジネスが行き詰まります。

例えば、サッカーでボールを追いかけ続け、どれだけボールを相手ゴールに入れていても自陣の守りが脆弱でそれ以上の失点をしていたら意味がありませんし、優勝するためにはシーズンを勝ち抜くための戦略を練ることや良い選手の加入、既存選手の育成も重要になってくるのは想像に難くないのではないでしょうか。

そして、点を取り続けたのに敗北してしまったとき「自分はうまくやっていたのに、なぜ……」と愚痴をこぼす羽目になります。
ですから、短期的な成果を出すことに集中せず長期の成果を求めなければなりません。
短期的な評価を捨ててでも「目の前の敵を倒すだけではいけない、戦略を練るべきだ」と割り切るのです。

小さくてレバレッジが効くことをやり続ける

物事にはレバレッジが効くことと効かないことがあります。
例えば、「採用のプロセスを改善すること」は大きなレバレッジが効くことです。
将来的に優秀な人材が入社し、大きな恩恵をチームや組織にもたらすからです。
同様に「オンボーディングを整える」「ドキュメントを整理し有効活用する」なども人の成長に寄与し、高い生産性をもたらすでしょう。
しかし、「短期的に多くの面接をこなすこと」や「マネージャーが目の前にあるコードを書くこと」はレバレッジが効く仕事ではありません。
人間は達成感を得ることでモチベーションを保っているので、「小さな仕事」に取り組みがちです。
ですが、その「小さな仕事」が「レバレッジが効き、将来的に大きな価値を生み出すか」を考えて「やるやら」を決めなければなりません。

確保できる時間枠にやれることを詰め込む

これまで見てきたように確保できる時間枠は有限です。
例えば、大きなチームをマネジメントしていて20人のメンバーと隔週で30分の話をしようとすると、 それだけで月に20時間を使ってしまうことになります。(事前準備や事後の対応を考えるともっとですね)
管理しているメンバー、関係しているメンバーが増えればこの時間は肥大化する一方です。
他のチームのメンバーとも1on1をしたり、ビジネス側の人間とも話をしようとすればどんどん時間を消費します。
ここで逆に考えてみましょう。
使える時間が10時間しかない、と決めてしまえばそこに重要なことから詰め込んでいくしかありません。
ネットで有名な「この壺は満杯か?」という話を思い出す必要があります。(長いので詳しくはググってください)
月に「1on1の時間」を10時間確保すると決めてその中に押し込んでいくなら「何を優先するか」が明確になるので時間配分をコントロールすることができるようになります。

常に自分を不要にすると意識する

ルールのない場所で仕事をしている場合、属人性が高くなりがちです。
しかしながら、最初の方にでてきた「面接官の仕事」であればルールやガイドラインを作成し、良い面接官を育て、仕事を委譲することができればスケーリングすることができます。
他の誰かが自分の仕事を引き受けることができるようにガイドラインを設計するのもマネージャーの大切な仕事です。
自分で自分の仕事をなくしていかなければ「常に忙しい」という状況になり、大きな仕事を成し遂げることはできなくなります。
もし仕事が完全に無くなってしまうことを恐れるなら、その心配はありません。
組織が成長しているなら仕事は無限にわいてきます。

そして、ルールを構築したら例外処理も含めて委譲しなければいけません。
例えば、「特殊なケースでの面接」や「インシデントの対応」にはしばしば「例外処理」が発生します。
この例外は文章やルールにしづらく、「いざとなったら自分がでていけば良い」と思うかもしれません。
しかしながら、そのようなことをしていると、自分で自分を拘束していることになります。

ルール外のことは自分しかできない(他人にはできない)、と考えるのはやめて委譲先の人物を信頼して任せましょう。
常にインシデントを処理していればあなたは短期的にヒーローになれるでしょうが、それは自己満足にすぎずインシデントを減らす仕組み作りや体制を整えるべきです。

優秀な人材を雇う

マネージャーにできる最大の功績は「優秀な人を雇い、将来に備える」ことです。
組織は常に人不足ですし、「ここに誰かをアサインしたい」と言う話になると玉突き人事をやる羽目になったりします。
ですから、常に成長を予測し「やるべきことができなくなる前に」適切な人を雇うことです。
そして、明確な組織設計や人員配置を計画することで組織やチームが重要なタイミングで動けなくなることを未然に防ぎます。

事を成し遂げるためにカレンダーをブロックする

ここまで書いてきたことを成し遂げるために、カレンダーは積極的にブロックするべきです。
多くの場合で「集中して仕事を成し遂げる」のであれば最低2時間、できれば3時間の連続した時間が必要です。
ですから、カレンダーはブロックすべきですし、ブロックした時間に割り込まれないように「作業時間」や「トイレ」などと書いてはいけません。
「これなら上書きしても大丈夫だな」といって割り込まれるのが落ちです。

これらの手段を講じることで、自分の時間を確保し事を成し遂げることができるようになりますし、逆にいえば「自分と組織の時間を大切にする」ことができなければ何も成し遂げられません。
「忙しさ」と「生産的であること」を混同しないようにして、より多くの物事を成し遂げられるように意識しましょう。

怒りを捨てる

そろそろお伝えすべきことも終わりに近づいてきたのですが、ここで最も大切なことを教えます。 それは「怒りを捨てる」ことです。
マネジメントの仕事をしていると正直なところ「イラッとする」ことが多くなります。
プログラムは書いたとおりに動きますが、人や状況は思った通りには動いてくれません。
期待したとおりに人が動いてくれない、聞いていないことが起きる、頑張っているはずなのに評価されない、言われなくてもわかるようなことを他の人が言ってくる、などなどです。
ですが、「怒り」という感情は外部からやってくるのではなく、自分自身が生み出しているものです。
端的にいえば自分で自分を傷つける感情、それが「怒り」です。
この「怒り」を捨てることで、かなり気分良く働くことができるようになります。
どうやって「怒り」を捨てるのかについては色々な方法がありますが、私のおすすめとしては「他人に期待しすぎない」ことです。
人に期待しすぎるとどうしても「怒り」を感じます。
自分が思ったことと違うことを言われた、予期しない反応をされた、良かれと思ってやったのに責められたなどなど、「期待」を裏切られたことによって発生する「怒り」は数え切れないほどです。
ですから、「他人に期待すること」を止めてみてください。
思った以上に気持ちが楽になるはずです。
より詳しく知りたい場合はアンガーマネジメントなども参考にしてみてくださいね。

最後に

このように最もらしいことを書いてきましたが、これらを実践したからといって超人になれるわけではありません。
しかしながら、これらのことを意識することでより本質的なことに取り組むことができるようになりますし、問題を解決するということに関して実感を得ることができるようになるはずです。

エンジニアリングマネージャーの仕事は画一的なものではなく、チームの状態や組織のステージによっても大きく変わってしまいます。
しかしながら、ここに挙げたものは非常に普遍的なテクニックであるため、何年も使えるものですし、今すぐにだって役立つものと自負しています。
そして、このようなテクニックを使いながら急成長する組織で働き自身も成長することは何にも代えがたいほど、挑戦的で面白い仕事であると考えています。

estieでは、日々これらのことに取り組んでいます。もし興味を持って頂けたらカジュアル面談で話してみましょう!
また、これらのポジションも積極的に募集中です。

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