なぜエンジニアが顧客の声を直接聞くのか? 〜死角のない組織と多様性〜

こんにちは、estieで開発部門を管掌している取締役CTOのNari (@tiwanari) です!今年も暑い日が続いているため、会社でかき氷をはじめたところChief Tabemono Officerと呼ばれていじられています。さてこの記事は estie 真夏のアドベントカレンダー 10日目の記事になります!

「商業用不動産の領域でBtoB事業を営んでいる不動産テック」ってなかなかとっつきづらいですよね?estieが営む事業や開発しているプロダクトは、inside blogやプレスリリースなどで少しずつ知ってきていただいているのかなと思うのですが、一番魅力をお伝えできるのはやはり直接お話をさせていただくカジュアル面談だと思っています(ぜひカジュアル面談お申し込みフォームからお申し込みください)。

そのカジュアル面談で、estieの魅力の一つとしてお伝えするのが”エンジニアが直接顧客ヒアリングに行くので顧客が近い”です。estieでは部門の壁がなく、「商談についていきたい!」というと顧客に迷惑がかからない範囲でいくらでも連れて行ってもらえます。私はこの半年間で新規プロダクト開発をしていたのですが、特に開発初期は一ヶ月で5社程度お話を聞いたり、月次定例に参加したりして業務理解を深めていました。

それに対して、カジュアル面談で「それはカスタマーサクセスやプロダクトマネージャーに任せてコードを書く時間に当てたほうが良いのではないか」という率直な疑問をもらう機会があり、その疑問に回答したいと思って筆をとりました。

この記事では、「なぜエンジニアが顧客の声を直接聞くのか」について、(1) 創りたいと思っている組織像と (2) 多様性(Diversity)の観点から言語化を試みています。

開発部門で目指す「死角のない組織」

開発部門の入社時オンボーディングにおいて、部門長を務めるCTOが「ようこそ!」と伝える機会として「ハイパーCTOタイム」(私がつけた名前ではないので毎回恥ずかしい)という時間を頂いています。そこでは、これまでの経緯や失敗、我々のありたい姿などをお話しているのですが、組織設計の思想では「組織の視力」に言及しています。

これはプロダクトマネージャーは「組織の視力」を把握しよう - もくもくプロダクトマネジメント( @Nunerm ) で紹介されているもので、プロダクト・事業を成長させるためのタスクを (1) 領域、 (2) 時間、 (3) 解像度の3つの軸で分割し、それらを実行していくために (I) 視野、 (II) 視座、 (II) 視点、そして (IV) 凝視度の4つからなる「組織の視力」を高めることが重要と整理されたものです。

プロダクトマネージャーは「組織の視力」を把握しよう - もくもくプロダクトマネジメント( @Nunerm )より引用。 凝視度が濃さであらわされている。 また、(!)となっているところが誰も見れていない死角。

例えば、ありがちな組織の作り方のアンチパターンはミドルマネージャー不足によって「管理」の面(領域×時間)が死角となることです。

この「死角がない組織」が理想で、ビジョンだけの頭でっかちな組織でも良くないし、方向性が定まっていないまま遂行だけする組織でも良くありません。そして、死角のない組織をつくるためには、多様なメンバーが居ることが必要で、かつそれぞれが声をあげられる環境を作るべきと考えています。

多様な声を取り入れるために、例えば開発部門では「まずサイドを示す」をestieのありたい姿とは - estie inside blog で言語化しており、支持する選択肢を最初に明確にしてから意見を聞くことで多様な声を集め、効率的に考えをぶつけようとしています。また、この考えは、賢い組織は「みんな」で決める リーダーのための行動科学入門 キャス・サンスティーン/リード・ヘイスティ 著 で言われる他の人の意見に流されてしまう情報カスケードなどの罠を回避することに繋がると考えています。

死角のない組織に必要な多様性とは?

さて、「多様な声を取り入れる」となると思い浮かぶのがDE&I(Diversity, Equity, and Inclusion)でしょう。ここでは特にDiversity(多様性)について、深ぼることとします。

なお、多様性の科学 にあるように「多様性」にもいくつかの分類があり、性別、人種、年齢、信仰などの違いを表すのが「人口統計学的多様性」です。「人口統計学的多様性」はE&Iの観点で広く取り上げられており、estieでも重要な要素として認識しています。

他方で、「多様な声を入れる」という観点では、人口統計学的多様性を高くするだけでは不十分であり、ものの見え方や考え方の違いを表す「認知的多様性」を高くしていく必要があります。例えば、全く異なる人口統計学的属性を持つ人も、同じ先生のもとでずっと学んできたのであれば、似た考え方をすることは想像に難くないでしょう。

認知的多様性は、人口統計学的多様性と比較して定量的に示す方法が自明ではないですが、上記の組織の視力で考えるとわかりやすいと考えています。例えば、「技術」の面(時間x解像度)について、あるエンジニアが別のエンジニアに対して全てにおいて勝っているということは稀であり、異なった視点や凝視度からの意見が新しい選択肢を生み出すことにつながります。

余談ですが、様々な視点を意図的に提示してくれたり、無意識にもっていた枠を取っ払った発言をしてくれたりするのが生成AIのおもしろさだと感じています。例えば、「採用エージェントに自社にもっと注目してもらうためにはどうしたらよいか?」と尋ねたところ、「人材を紹介する」という答えが返ってきて、最初は「採用エージェントに逆に人材を紹介するとは…?」と疑問に思ったのですが、よく考えてみると自社の報酬条件に合わない人材を逆に紹介してあげるというのは、確かに固定観念を取っ払った選択肢だなと感心してしまいました。認知的多様性がある組織では、このような考えもしなかった選択肢を見出せる可能性が上がるわけです。

結局なぜエンジニアが顧客の声を聞くのか

estieでは、1人ひとりのメンバーの意見はもちろん積極的に取り入れますが、同時に「それを合議で決めるのは良くない」と言うことがあります。これは、まとめ役が御用聞きになってしまって、メンバー全員の意見を聞いて慮った結果、毒にも薬にもならない案が出てしまうことを恐れているからです。

そもそも認知的多様性がない組織では、同じような考えの人が集まっているため、同じような情報が与えられた場合は、誰か1人が決めたことと大差のない結論になって、意見は聞くだけ時間の無駄になります。リファラルが採用チャネルの大きな部分を占める初期のスタートアップでは、多様性に乏しい状況も生まれやすく、合議で決めることが効果的でない場面が出てきます。

私はこの一つの緩和策が「顧客の声を聞く」だと考えています。

同じような考え方の人が、同じようなインプットを得ている組織では、なにかを合議で決めることは極論時間の無駄になるわけですが、プロダクトを使っているユーザ・顧客を組織の一部と捉えれば、その声を取り入れることで考え方の異なる意見を取り込めるため、加わった新しい目が組織の死角を減らし、かつ様々なインプットが新しいアイディアを生むことになります。つまり、顧客を含めて組織の視力を考えることができるようになります。

最初の問の「それはカスタマーサクセスやプロダクトマネージャーに任せてコードを書く時間に当てたほうが良いのではないか」に立ち戻ると、カスタマーサクセス・プロダクトマネージャー・エンジニアの各々が1次情報を自信をもって意見を言える形だと、職能横断で形成されたチームの真価が発揮され、日々の活動で議論が活発に行われて新しいアイディアがうまれたり、顧客が必要としないものを作ることが減ります。

そもそも事業が大きくなると、だれか1人がすべての顧客の声を把握しておくことは難しいですが、担当を分けて多様なインプットを各々が持ってくることを良いことだと考えれば、「自分はプロダクトマネージャーだから商談記録は全部追わないと…」のような重荷を背負わなくても良くなります。

チームが最大の成果を出すために、無意識に持ってしまった職種などの境界は取っ払ってしまう。これが、estieでエンジニアが顧客の声を聞いていることの説明になります。

BtoBにおけるデータ活用のススメと顧客の声

最後におまけになりますが、以前 息子たちも育ってるがデータ分析文化も育ってる件 - estie inside blog という記事で、「今までは顧客の声を特に大事にしていたけど、データを活用することが重要になってきた」という話をしました。これは「顧客の声を聞くこと」と対立するのでしょうか?

BtoCのプロダクトではA/Bテスト等が活発に行われますが、これは「複数パターンのどれを好むのかは大数の法則によってユーザによる多数決で決められる」という前提に立っています。つまり、1人の顧客しか言っていない要望は見過ごして良いものになりますが、BtoBにおいては考え方が異なると思っています。

estieでは、Daily Active User(DAU)などは全体感を理解するためにBtoCと同様に追っていますが、もっと踏み込んで個別企業や個別ユーザの行動レベルまでブレイクダウンしたログ分析に力を入れ、エンジニアなどに関わらず、カスタマーサクセスの担当を決めてそれぞれの企業の状況を分析し、知ったことを共有しあっています。

というのも、estieのように業界特化のBtoB事業を営んでいると、ユーザ自身が業務のプロであり、かつ各社で異なるオペレーションを行っているため、BtoCのように平均化してしまうのではなく個別ユーザ(N=1)を深く知ることが多様なインプットにつながるためです。

「BtoBだと有意差が出るほどユーザ数がいないから」とデータを取ることをあきらめるのはもったいないです。

まとめ

今回は、「なぜエンジニアが顧客の声を聞くのか?」という問をきっかけとし、多様性という観点から考え「死角のない組織 (〜認知的多様性がある組織)を作ってより良い選択肢を選びたいから」という回答をしました。

DE&Iは、estieでもこの数年でやっと意識したところであり、まだまだ課題が多いのが正直なところですが、自覚のないものも含めてバイアスを減らし、より死角のない組織を作っていけたらと考えています。

多くの方と話をして、新しい考えや知識、経験をお聞きすることは個人的にも楽しいので、ぜひ気軽にカジュアル面談等のお申し込みをいただければ幸いです!

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