激変する資金調達環境に、estieはどう対応したか

こんにちは、estieの上田です!執筆者としてこのブログに登場するのは、昨年10月の入社エントリー以来、久しぶりです。

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CFOとしてどのようなことに取り組んでいるのか、案件の機密性などもあり対外発信することはこれまで有りませんでしたが、入社後一年経つこのタイミングで少しだけ共有させてください。

今回は「激変する資金調達環境に、estieはどう対応したか」という表題のテーマに沿って書いてみたいと思います。

入社直後(2022年末頃)の資金調達環境の振り返り

まず、外部環境について振り返りたいと思います。

2021年の年末ごろから世界的インフレと金利高の進行により、グロース銘柄の株価が下落し始めました。特に、コロナ禍に対応した金融緩和政策によって生み出された過剰流動性を背景に赤字運営が許容されていたSaaS銘柄は、こうした環境変化の影響を強く受け、株価もピーク時と比べ半減しました。

日本の上場SaaS企業の株価推移 (21年9月1日=100)

※出所:One Capital Cloud Indexより筆者が集計

軟調な株価は当然のことながらIPO市場に波及しました。2021年には上場時の時価総額が数百億円、発行総額も数十億円以上に上るIPOがいくつもありましたが、2022年は投資家の需要が縮小し相当規模を有するIPO件数は大きく減少しました。これにより、ユニコーンやユニコーン予備軍と呼ばれていたスタートアップに出資をしていた投資家にとってのExitの選択肢が狭まる結果となりました。

発行総額(公募金額+売出金額)50億円以上のIPO件数推移

※出所:デロイト・トーマツ「2022年IPO市場の動向」より筆者が集計

上記のような環境変化を受け、未上場スタートアップ界隈でも「ランウェイを伸ばせ」「黒字化を目指せ」「ダウンラウンドを覚悟しろ」とよく言われるようになりました。また実際に、自分自身の周りを見渡しても、採用一辺倒だった企業が希望退職を始めたり、資金調達時にバリュエーションの交渉で苦戦する話を身近に聞くようになりました。

環境変化を受けて、estieはどう反応したか

estieは12月決算であるため、10-11月頃に翌年度の予算を立て始めます。ちょうど私がCFOに就任して直後に、上記の環境変化をどのように予算に織り込むべきかという問いが生まれました。

2022年11月の全社定例会議で使用したスライド(※会社ロゴは改定前)

実は私の入社直後のestieは、幸いなことに、Series Aで調達した現金がほぼそのまま銀行口座に残っているほどキャッシュには余裕がある状況でした。また、盤石な既存投資家陣や、日本に豊富に存在すると見られたドライパウダー(=ファンドの投資余力)の存在、及びestieの堅牢な事業モデルを鑑みると、悲観する必要は全くないと見立てました。何よりも、外部環境を理由にestieの成長モメンタムを下げたくないという思いがありました。

しかし、急成長を目指すスタートアップ企業として、組織拡大や事業成長に伴う先行的な現金支出は今後も増えていく方向性にあることを踏まえると、楽観視することもできません。

そこで、高い年間目標は据え置きつつ、現金支出の元となる組織拡大の山を下半期に寄せ、上半期は生産性の改善にフォーカスして取り組む方針を立てました。その際の分かりやすい指標として、一人当たりARRの向上を目標に据えました。長期的に高い成長を実現するための足腰を鍛えながら、環境悪化が持続・深刻化した場合にブレーキをかけられるような経営の柔軟性を残すことが狙いでした。

さらに、上記のような自社の経営努力によるキャッシュフローのコントロールと並行して、希薄化を伴わないデット性資金の調達を通じ、次回のエクイティ調達までの期間(=ランウェイ)を長期化することを目指しました。

本来、不確実なスタートアップの成長投資はエクイティ性資金でまかなうことがセオリーですが、足元の外部環境がそれを許さないかもしれない、という環境でした。他方で、このような環境下でありながらも『今は我々が成長企業の下支えをしたい』という意欲を持たれたデット性の資金の出し手が日本に多く現れ始めていることに気がつきました。そのような背景から、デット性資金を手元に厚く持っておくことによってエクイティ調達のタイミングをコントロールできるようになりたい、と考え実行に移すこととしました。

2022年11月の全社定例会議で使用したスライドを本ブログ用に編集したもの(※会社ロゴは改定前)

まとめると、

  1. 高い採用目標は維持しつつも、上期は一人当たりARRの向上を優先し、短期的にキャッシュを保全する

  2. 金融機関からDebt性の資金を調達し、ランウェイを最大化する

という2点を、2022年末から2023年上半期にかけて集中して取り組むことにしました。

具体的なアクションについて

上記の一点目については、血の通った全社的な取り組みに昇華するために、2022年の年末に全社員での合宿を開催し、各部門を小グループに分け「明日から実行できる生産性向上策」を出し合うことにしました。

2022年12月の全社定例会議で使用したスライド(※会社ロゴは改定前)

合宿でのグループワークは大いに盛り上がり、社員一人一人から実行可能で効果の高そうなアイディアが自発的にどんどんと生みだされていきました。年明けには、合宿で各チームが宣言した取り組みの進捗を全社で報告しあうなどエクセキューションの妙も功を奏し、2023年6月の上半期が終わる頃には一人当たりARR目標を超過達成することが出来ました。

二点目については、2023年4月にリリースを出させていただいた通り、二桁億円の長期デットを調達することが出来ました。

estie(エスティ)、金融機関からの長期借入及びコミットメントライン(融資枠)等による総額16億円の資金調達の実施を発表|株式会社estieのプレスリリース

当初の想定よりも多くの金額を調達することができたため、相互にシナジーを生みだす複数プロダクトを同時多発的に開発・提供していく「Whole Product構想」の実現に向けた採用強化にも、下半期から自信をもって取り組める地盤を作ることが出来ました。

環境変化を乗り越え、estieが今フォーカスしていること

ここで、スタートアップの資金調達額の最新の状況を見てみましょう。

国内スタートアップ資金調達額推移(半期ごと)

※出所:INITIAL「2023上半期Japan Startup Finance」

2022年の環境変化を受け、2023年上半期のスタートアップの資金調達は壊滅的な結果となるシナリオもあり得ましたが、結果としてはそれほど深刻な状況にはならなかったというのが個人的な感想です。ボトムを打ったと考えるのは時期尚早かもしれませんが、今のところコロナ禍での過剰流動性で緩んだ調達市場が、2020年以前の状況に正常化した程度の変化に留まったように見えます。

このような環境変化をしり目に、estieとしては2023年の上半期中に、生産性の向上とランウェイの長期化という「やるべき事」をやり遂げることが出来ました。そして、2023年の下半期はいよいよ成長のモメンタムを加速することにフォーカスしたいと考えています。

それは即ち、「マルチプロダクト戦略の推進に向けた開発チームの充実化」であり、「顧客の面の拡大・サクセス支援の質の向上 及び 事業開発に必要なオペレーションチームの拡張」であり、「拡大傾向にある組織を支え、estieが次のステージに向かうためのコーポレート機能への投資」です。(= 平たく言うと『仲間集め』です!!!)

終わりに

以上、CFOとして外部環境の変化をどう観察し、会社としてどのように対応してきたのかについて簡単に共有させていただきました。

会社組織として当たり前のことに淡々と取り組んだまでであり何も特別なことはありませんが、私個人としては全社のメンバーが生産性改善に向けた創意工夫を行い、成長を加速するための開発・営業・管理に果敢に取り組み続けたことについてはとても誇らしく思っています。同時に、estieという組織のポテンシャルの高さをこの一年間で体感することができ、入社来のワクワクが更に強まりました。

これ以外にも、この一年間にはここには書ききれないくらい、個人の仕事としても会社の事業としてもエキサイティングなことが沢山ありました。また別の機会にブログとして共有するか、関心を持たれた方には直接お話しすることもできればと思います。ぜひ、X(Twitter)へDM送付ください。

それではまた!

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