コンパウンドスタートアップにおけるデータ事業開発

こんにちは!株式会社estie(エスティ)で事業開発を担当しております、田中と申します。

代表の平井による「【実践編】コンパウンドスタートアップの作り方」を皮切りに、社内の様々な職種/領域を担当するメンバが各々の思う「コンパウンドスタートアップの在り方」について連日投稿する中で、それぞれの専門性から見るコンパウンドスタートアップの姿が言語化されてきており、みんな違ってみんないいなぁ(小並感)と思う今日この頃です。

私自身は一人目ビジネス系社員としてestieの創業初期から参画し、まだコンパウンドの「コ」の字もない時代から、事業の立ち上げ・グロースに携わって参りました(詳細は入社して5年目でようやく書いた入社エントリをご確認ください)。そして現在、コンパウンドスタートアップ戦略を推進するために今まで以上に連続的な事業の立ち上げが必要となってきています。そのような中で本記事では私が事業開発として大切にしていることを、なるべく簡潔にお伝えできればいいなと思っております!よろしくお願いいたします。

この記事の内容

  • (今更)estie の基盤事業「estie マーケット調査」とは?
  • コンパウンドスタートアップ戦略の事業開発において大切にしていること
  • コンパウンドスタートアップにおける事業開発の今後の挑戦

(今更)estie の基盤事業「estie マーケット調査」とは?

こちらについては社内の先人たちの素晴らしいエントリがわんさかあるのですが、「そんなのいちいち見てられないよ!」というせっかちな方向けに、改めて簡潔に「estie マーケット調査」のこれまでと現状についてお話しさせていただければと思います。

背景:不動産業界におけるデータ活用の現状

ChatGPTを始めとする生成系AIが巷を賑わせている今日この頃ですが、それらの凄いところはインターネット(に限らないですが)に溢れる膨大なデータを収集し、それらからユーザーが必要とする情報を日々学習しながら整理し、最終的にアウトプットまでしてくれるところにあると個人的に思っています。

そのようにデータを活用し、最終的に各社の戦略に落とし込むには次の3つのステップがあると思っております。

  • データを収集し活用できるデータを増やすこと
  • それら収集したデータを活用可能な形に整備すること
  • そのデータを分析し新たな示唆を生み出すこと

こと不動産業界においては、その不動産の個別性は非常に多岐にわたる一方(詳細が気になる方は事業責任者の齋藤が語っている不動産のデータの楽しさをご覧ください)で、そもそもstep1にある活用したいデータがpdfや紙だったりデジタル化されていない、ないし各事業者が日々接するデータはデジタル化されていても局所的にしか収集できていない、その結果不動産の取引にかかるコストが上がってしまっている現状があります。

その中で、estieとしてはそのような業界のインフラとなるデータを整備し、各事業者の戦略を支援すべく日々活動をしております。

「estie マーケット調査」のこれまで

estieは2018年末に創業して以来一貫して、オフィス賃貸市場にフォーカスして、上記の通りそのデータを収集・整備・加工し、各事業者の意思決定を支援して参りました。サービスローンチして3年以上経過し、「estie マーケット調査」の導入シェアはオフィス系の大手不動産事業者においては過半を占めるまでになってきております。

その一方で、不動産市場自体においてオフィスはその一角を占めるに過ぎず、巨大な市場のまだまだ一部分にしかアプローチができていません。

さらに、上記の通り不動産の種類(業界用語でアセットタイプといいます)は大きく5つに大別できる一方で、市場としては「賃貸市場」と「投資市場」の2つが存在し、それぞれ違った動きをします。賃貸市場はその床を使いたい国内の実需に影響を受けるのに対し、投資市場はそれに限らない国内外を含めた投資家の動向が反映されます(例えば足元では賃貸市場は安定的に推移する一方で、投資市場は円安を背景に海外からの投資が旺盛で上昇してたりします)。

従って、不動産のマーケットはその種類と市場によって、5 x 2 = 10のフィールドがあるのに対し、我々はまだその1つしかできてなかったことになります。まだまだですね。

「estie マーケット調査」の現状

そのような中、顧客の一連の業務課題をより深く解決すべく、コンパウンドスタートアップ戦略(当時はマルチプロダクト戦略と呼んでいました)を推進するために、私が所属する市場調査グループはそのソリューションを既存の「estie マーケット調査」に限らず拡充していくことに踏み切ります。

VPoPの久保が書いた今年初めの記事からの引用となりますが、ユーザーの業務フロー(バリューチェーン)を再整理・分解し、そこに合わせた最適なプロダクトを開発・提供していくというものでした。

当時は上記の通り「estie pro」(リニューアルし現在は「estie マーケット調査」に改名)一つの寂しい状態でした。そのような中、コンパウンドスタートアップ戦略に本格的に踏み出して約1年が経過した2023年12月初め現在、下記のようになっています。

※一部正式リリース前のプロダクトを含むため名前を伏せさせていただいております

よくわからないくらい、箱が増えているのがよくわかるかと思います…笑

特にestieとしてはこれまで支援できていなかった不動産の投資市場領域に進出できたことが一つ大きな一歩だったと個人的に振り返っております。

ただ、市場調査グループは一貫して不動産に携わる事業者が意思決定に必要な羅針盤を提供することをミッションとしており、我々としてはまだまだやりたいこと(=顧客の課題を解決できるソリューション)は無数にある、コンパウンドスタートアップ戦略はまだ始まったばかりだと思っています。

コンパウンドスタートアップ戦略の事業開発において大切にしていること

さて前置きが長くなってしまいましたが、本題です。

私のroleは事業開発であり、上記の図で言うところのどこに次の箱があるのかを特定し、それをデータという切り口を通して事業として形にすることをメインで担当しております。

細かいhowの部分は割愛します(詳細気になる方はぜひカジュアル面談しましょう!笑)が、私として上記を推進するために大事にしていることは一言にまとめると、顧客へ「早く、高い価値を届ける」ことになります。


あれ、よく「スピード」と「品質」ってトレードオフとして語られないっけ?と思ったそこの貴方。果たしてそれって一度立ち返って本当に両立し得ないものなのでしょうか?本件についてはソフトウェアエンジニアのriano_が名ブログを書いているので詳細はそちらに譲りつつ、estieではPurposeである「産業の真価を、さらに拓く。」ために日々それアンチパターンじゃないっけ?と言われるものに挑戦しています。(そもそもコンパウンドスタートアップ戦略自体が、PMFするまで一つの事業にフォーカスせよというスタートアップの鉄則とは矛盾してそうですよね。それはビジネス部門の責任者の束原が掘り下げているので、ぜひそちらをご覧ください)

それでは私が「早く、高い価値を届ける」について、どのように考えているのか、もう少し深掘りしていきたいと思います。

早く届ける

これは私の入社エントリでも記載したのですが、往々にして当初描いていた仮説は外れます。それ自体は決して悲観すべきではなく、顧客が求めていたはずのものからどこの部分がずれていたのかを把握し軌道修正をしていくことで、当初描いていた仮説(すなわち我々の想い)と顧客のニーズが融合し事業の形になっていくのだと感じています。ただ、ユーザーに見てもらわないことにはどこがずれていたのかを把握するスタートラインにすら立てません(仮説が外れる前提…笑)。また、顧客に提供することを通して、当初見えていなかったユースケースを顧客が発見する、ということも日々あります(これはユーザーのワークフローを効率化するようなプロダクトではなく、顧客の意思決定を支えるデータの提供というプロダクトの性質によるものもあると思っています)。

上記のことから、言われてしまえば当たり前のことなのですが、一分でも一秒でも早く顧客の目に触れる状態を作ることが事業開発において非常に大事だと思っています。

代表の平井による「【実践編】コンパウンドスタートアップの作り方」でも記載のある通り、複数プロダクトの基盤となるデータの繋がり(Integration)がコンパウンドスタートアップの要となっています。そんな中、早速アンチパターンとなってしまいますが、私がいる市場調査グループではIntegrationを一旦無視して個別のプロダクトの立ち上げを推進しています。決してIntegrationをしないというわけではなく、基盤のデータの整備は見据えつつ、まずは単一のプロダクトのデータだけでも顧客の深い課題を解決できる、顧客との対話を通してIntegrationの形を模索していく意思決定となります。

高い価値を届ける

これも当たり前のことを言っているようなのですが、ここで言いたいことは「安売りをしない」ということです。プロダクトの性質やセールス&マーケの戦略にも関わる部分なので全てのプロダクトに当てはまることだとはもちろん思っていませんが、一般にプロダクトのプライシングと受注率はトレードオフの関係にあります。従って、値下げをすれば、初期の顧客獲得の可能性は上がり、特に事業開発フェーズにおいては日々その誘惑に駆られます。(私だけじゃないはず…)

しかし、事業開発フェーズにおいて大事なのは「顧客の課題を真に捉えて、その課題解決にあたるソリューションを作れているか」であり、値下げをすることでその検証が歪むリスクがあると思っています。当たり前ですが、プロダクトのプライシングが高いほど、顧客はよりシビアに果たしてそのプロダクトが導入に値するものなのか、ということを追求してきます。それ自体は健全なキャッチボールであり、そこに対して「値下げ」という形で対応するのではなく、「どうやったらこれをこの金額で導入してもらえるか」を熟考していくことを通して、プロダクトの価値が研ぎ澄まされていくと思っております。

コンパウンドスタートアップにおける事業開発の今後の挑戦

さて、これまでのコンパウンドスタートアップ戦略を推進するための営みをここまで話して参りましたが、最後にコンパウンドスタートアップにおける直近及び今後の事業開発の挑戦を2つほどご紹介できればと思います。

開発期間1週間での爆速プロダクト開発

これはまだ正式なリリースをしてないので詳細はお話しできないのですが、上記の通り顧客への提供スピードを何より優先して、ソフトウェアエンジニア、デザインエンジニア、VPoE、Bizdevの4人の少数チームメンバで1週間で新規プロダクトを開発・提供開始した事例となります。(もちろんその前のデータの整備・取得のリードタイムはありますが)

スクラムも組まず朝会すらせず、ひたすらスピードを追求していきました。本当にestieの開発メンバのスピードには頭が上がりません。

11月末に開発完了してすでに顧客への提案活動を開始しており、今後顧客との対話を通して、プロダクトがどんどん成長していくのが楽しみで仕方ありません。

事業開発メンバによるプロトタイプ製作

これは現状ではまだできておらず、これからやっていきたいという私の野望(妄想)に近い内容なのですが、前述の通り市場調査グループではコンパウンドスタートアップにおけるIntegrationを一旦後回しにして、サービス開発・提供を行って参りました。一方で、Integrationが独自の価値を生み出すのは自明であり、また日々estieのデータ基盤上のデータは増えていっているので、その活用価値は高まっている状態と言えます。

データマネジメントプラットフォームの和田がestieのデータ基盤をSnowflake上に整備・集約していってくれており、すでにプロダクトをまたがったデータの分析などが可能な状態が構築されてきております。

前述の通り爆速プロダクト開発をしてくれる大変頼もしいメンバがいつつ、仮説ベースの事業開発フェーズで、より早く顧客に価値提供するために、「プロダクト開発抜きにしてプロトタイプが製作できないか」と最近思ったりしています。

SnowflakeにあるStreamlitには大変注目していて、estieのデータを活用したプロトタイプをStreamlit上で製作し、より顧客に提供するまでのスピードを追求していけないかと考えております。こちらの挑戦の結果もいつかブログに書ければなと思っています。

Streamlitで簡単なアプリを作っている例

最後に

私がコンパウンドスタートアップにおいて、事業開発として大事にしていることや直近の取り組みについてご紹介させていただきました。

estieのコンパウンドスタートアップ戦略はまだまだ始まったばかりで、その実現に向けて日々まだ色々な試行錯誤を続けている途上です。プロダクトが1本だったところから比べると、提供できるソリューションが複層化し、顧客の幅もその解決する課題の深さもどんどん広がっていっている中で、それをコンパウンドスタートアップとしてチームでどう実現していくかという非常に大きな挑戦が待ち受けており、控えめに言って今の会社のフェーズは今までになく刺激的でチャレンジングだと感じております。

少しでも興味を持っていただいた方はぜひ一度気軽にお話ししましょう!

そして一緒にコンパウンドしていきましょう!

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