
estie でソフトウェアエンジニアをしている riano_ です。
estie に入社して 3 年が経ちました。また、estie が AtCoder のコンテストをスポンサーするのは今年で 4 回目、ARC を開催するのは 3 回目になります。折しも 30 年目の人生が終わりを迎えつつあり、個人的にも節目を感じているので、この 3 年間の取り組みの背景にある思いを包み隠さず書き残してみたいと思います。
「仕方ない」を無くしたい - estie で取り組んでいること
estie では、主に「不動産のデータをどう扱うと価値を最大限発揮できるか」という課題に取り組んできました。
例えば、不動産に限らず、同じようなデータをいくつものシステムに入力しないといけない、というような状況に出くわしたことがある人は多いのではないでしょうか。おそらくそれはデータを利用する目的が異なるからで、それぞれの使い道に適した形式でデータを保管しているのだと思います。しかし、元はと言えば単一の実態があるわけで、上手くやれば一箇所で管理して適宜必要な切り口で取り出すということが出来そうです。2 年前、不動産の情報を管理するサービスを開発していたときには、そのように考えていました。
あるいは、estie 社内においてもデータの取り扱いの課題は生じていました。社内で扱えるデータの種類が増えたことで、多くのサービスが、データを組み合わせてより価値のある分析機能を提供することを考え始めていました。それは、あるデータが一つのサービスを成立させるだけではなく、他のサービスでも利用されて価値を産むようになる、という転換です。その際、利用するサービスごとに同じデータをそれぞれ管理するのはデータの導入ごとに非常に手間がかかり、共通の場所で管理した方がいいように思います。1 年前、そのように考えて、社内のデータを統合して提供する社内サービスを作っていました。
共通して抱いていたのは「もっと上手くやる方法があるはず」という直感であり、そこに労力あたりの付加価値を大きくする余地を見出していました。そしてそれは、何かを犠牲にする代わりに何かを得るのではなく、全てを諦めない本質的な課題解決に繋がると考えています。
あれか、これかという問いは世の中に溢れています。しかし、どちらかを妥協することは本当に仕方のないことなのでしょうか。分配は、全体を増やす方法を真に考え尽くしてからやればいい。世の中は、まだその限界には行き着いていないと、僕は感じています。そうであるならば、両方を取るための解決策を追い求めたいのです。
今再び、冒頭に挙げた 2 つを組み合わせたような課題に取り組んでいます。単一の実態であるデータをどう表現すれば多くの使い道に適うのか、そしてそれをどう管理すれば情報の秘匿と共有という両面の要望に応えられるのか、その最善の方法を見つけることができれば、不動産のデータはより効率よく、より大きな価値を生み出すことができるはずです。このことは、estie が究極的に目指す「産業の真価を、さらに拓く。」こと、ざっくり言うと国富の最大化、に連なる重要なステップでもあると思います。
それが難しいということは、今では理解しているつもりです。しかし、これは理想を追求する戦いです。AtCoder のコンテストをスポンサーすることを通して、この難題に一緒に立ち向かってもらえる人と巡り会えるとしたら、これほど心強いことはありません。
機会は人を自由にする。自由は人を強くする - AtCoder をスポンサーする理由
AtCoder のコンテストをスポンサーする理由は、僕の中では 3 つあります。
1 つは、先ほど述べたように、難題に立ち向かうべく強い人に仲間になってほしいからです。2 つめは、単純にコミュニティに対して還元したいという気持ちです。賞金付き ARC や懇親会など「こういうスポンサードコンテストがあってほしい」という一人の参加者としての理想をできる限り形にするよう努めています。そして 3 つめが、物事に本気で取り組んでいる人の得られる機会が少しでも広がってほしいと願っているからです。
僕は、26 歳のときに AtCoder を始めるまでほとんどプログラミングに触れたことがなく、Web 開発未経験のソフトウェアエンジニアとして estie に入社しました。kenkooooさんと定期的にバーチャルコンテストをしていたことを通して知り合ったことがきっかけでしたが、これは幸運としか言えない出来事でした。
一般的には、開発経験がないとソフトウェアエンジニアになるのは難しいというのが現状だと思います。それは、「開発経験を得るために開発経験が必要」というどうしようもない袋小路です。意欲も資質もある人がこのような障壁によって機会を得られないという現状を、少しでも変えたいと思います。
ところで、僕は「役に立つ」という理由で AtCoder を始めたわけでも、続けてきたわけでもありません。面白かったり、楽しかったりしたからこれまで続けてきました。それは打算ではなく、純粋な好奇心によるものであり、本気の取り組みであったと思っています。しかしどういうわけか、その中で身につけた力こそが今の自分自身を生かしています。これは、AtCoder 以前に取り組んだことにも当てはまります。
逆に、もし「役に立つ経験をしよう」と思って、本気になれないことをやっていたら、ここまでの力は身につかなかったように思います。人は、心からの興味に突き動かされるとき、想像もできないほどの集中力を発揮するのではないでしょうか。
今ここで、心から興味を持ったことに本気で取り組んできた人にこそ、門戸を広げたいと思います。
もし、自分が幸運な偶然によって通ってきた細い道が、そういう生き方を期待できるくらいには広がったとしたら、人々は自分自身の興味を追求する自由を得るでしょう。それを望む人々がそういう人生を送れることは純粋に豊かであるとも思いますし、そういった人々が興味を突き詰めた経験の中で磨く無形の力は、結果的に社会全体の役に立つものでもあると信じています。AtCoder のコンテストをスポンサーすることを通して、誰かの本気を後押しすることができるとしたら、これほど誇らしいことはありません。
人生を捧げなくてもいい - 社会を少し良くしたいと願う人へ
ここまで、実に壮大な理想を書き連ねてきました。もしかすると、読んでくださった方の中には「この人はすごい熱量で理想に燃えているんだな」と思った方もいるかもしれません。しかし、実際のところそんなことはありません。
確かに理想を抱いてはいますが、理想の社会よりも自分の人生における幸せの方が遥かに大事だと思っています。例えば、理想を実現するために起業するといったような大きなリスクを背負う勇気は僕にはありませんし、私財を投げ打ってコンテストを主催するようなことも出来そうにありません。それどころか、自身の理想と重なる仕事に取り組んでいるからといって積極的に残業することすらしたくありません。
しかし、このような人間であっても、社会を少し良くすることを諦める必要はないとも思っています。リスクや代償を払うつもりのある人が持ちうる影響力には敵わないでしょうが、たとえ自分自身はびた一文払うつもりがなくとも、自身の理想と会社の利益が上手く重なり合う領域を見つけることができれば、会社を「てこ」にして社会に一石を投じることはできるはずです。
estie は、このような個人の信念に基づく取り組みを受け入れ、会社の目指す方向との重なりを見つけながら奨励する文化がある組織だと思います(社内では「魂」という言葉で表現されています)。そしてその中で、自分を突き動かしているのは小さなこだわりから生まれた理想であり、その手に持つ武器は興味を追う過程で身につけた感性と思考力です。
社会を変える力は、きっとあなたにもあります。このブログが「てこ」となり、社会に投じられる信念が 1 つでも増えるとしたら、これほど嬉しいことはありません。
estie プログラミングコンテスト 2025 : https://atcoder.jp/contests/arc210