「産業の真価を、さらに拓く。」というパーパスを掲げ、不動産業界に特化したテクノロジーソリューションを提供するestie。共通のデータ基盤を元にしたコンパウンドサービスの根幹を支えるのが、膨大な不動産データを収集・整備・提供する「データマネジメント事業本部(DMG)」です。
estieのポッドキャスト「estie Inside FM」では、DMGの事業責任者である青木信が、DMGの役割や設立経緯、データカンパニーならではの挑戦と面白さについて語りました。今回はその内容を再構成してお届けします。
「データマネジメント事業本部(DMG)」3つの役割
束原: 青木さん、よろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いできますか?
青木: よろしくお願いします。estieのデータマネジメント事業本部(DMG)で事業責任者をしています、青木です。estieには5年ほど前にVPoEとして入社しました。当初はエンジニアリングセクション全体を見るという役割でしたが、この1年半ほどはDMGの事業責任者として、エンジニアリングだけでなく、ビジネスサイドも含めたより広い範囲のデータ戦略全般を担っています。
束原: 今日ね、ずばり聞いてみたいなと思っていたのは、「データマネジメント事業本部(DMG)って何なの?」という話なんです。estieは一つのデータ基盤から複数のプロダクトを展開する「コンパウンドスタートアップ」としてやってきていて、そのコアを担う部署がDMGなわけだけど、実態として何をやっているのか社外からは掴みづらいと思うんですね。
青木: DMGには、大きく分けて3つの役割があります。それぞれが相互に関わり合いながら、estieのデータ戦略を支えています。まず1つ目は「コアデータユニット」と呼んでいる役割です。これは、estieが展開する複数のプロダクト、例えばオフィス、商業施設、物流施設、レジデンスとか、色々なアセットタイプ向けのものがありますけど、そこで共通して利用されるような基盤となる「コアデータ」を作るという、まあ一番わかりやすい仕事ですね。estieをコンパウンドスタートアップたらしめる領域なのかなと。
束原:データ自体を集めたり、サービスに届けるってことをやっている人たちですね。
青木: そうです。ただ、不動産業界って、残念ながら最初から綺麗にデータが揃ってるわけではないんですよね。テックの力、例えばエンジニアリングや機械学習だけでデータを綺麗にしようとしても、どうしてもカバーしきれない部分が出てくるんです。僕らが本当に欲しいのは、現実世界に存在する建物の情報をできるだけ正しくデータに移したものなので。
そうしたテックだけではやりきれないところ、データのパートナー企業の方々も持ってないような情報をきちんと現実世界で確認して、自分たちでデータを作っていくような「オペレーション」の部隊が2つ目の役割です。去年あたりから本格的にオペレーションチームにも投資をして、これからはテック×オペレーションでやっていこうと。
そして3つ目が「データマネジメントプラットフォーム(DMP)ユニット」。これは、もうちょっと社内向けに近い話なんですけど、estieの社員が使いやすいデータ基盤を作る役割です。
束原: 社内向け、というと?
青木: さっきのコアデータをユーザーさんに提供するまでには、各プロダクトチームがデータを取捨選択してユーザーさんが使いやすい形に加工していくわけですけど、そうした部分で各チームの認知負荷を下げるために、データ基盤をもっと使いやすくプラットフォーム化しようという目的ですね。これは不動産データだけじゃなくて、ユーザーデータの基盤整備にも力を入れています。ビジネスサイドのメンバーとかプロダクトマネージャーも、ユーザーさんのことを正しく知れるようにする。estie全体のデータに基づいた意思決定、いわゆるデータインフォームドな状態を構築しているのがDMPです。
束原: なるほど。プロダクトの基盤となる「コアデータユニット」、コアデータユニットが集めきれないデータを取ってくる「オペレーション」、そして社内でのデータ活用を促進する「DMP」。この3つが連携してestieのデータ戦略を支えているわけですね。
コアデータユニットについて
束原: このDMGの3つの役割がどのようにして生まれていったのか掘り下げることは、「データの会社ってどうやって作っていくんだろう?」という実践的なヒントになると思っていて。まずはDMGの出発点であり、estieのプロダクトの根幹を支える「コアデータユニット」について、もう少し詳しく教えてください。
青木: DMGで最初にできたのがコアデータユニット、売り物となるデータをテックの力で作っていくチームです。当時は今でいう「estieマーケット調査」というプロダクトが主力で、まずはそのプロダクトに必要なデータを作る、という非常にシンプルな目的からスタートしました。
束原: まさにプロダクト起点だったんですね。
青木: そうなんです。当時はまだestieが将来どのようにプロダクトを展開していくか、我々自身も正直思い描いてなかったところも大きかったので、他のプロダクトでも汎用的に使えるように、とか、データ基盤を共通化しよう、といった思想は当初は全くありませんでした。
束原: アメリカのコンパウンドスタートアップって、最初から複数のプロダクト構想を持っているイメージがありますが、estieはそうではなかった?
青木: 全くなかったですね。いわゆる「後からコンパウンド」です。 結果として、どうしても特定のプロダクトの仕様やユースケースに寄り添いすぎたデータ構造になってしまっていた側面があります。創業期はまず目の前のプロダクトに集中していましたが、そこからお客様や業界のニーズに応えていく中で、複数のプロダクトを展開していくことになり、「このままではスケールしない」「もっと汎用的なデータ基盤が必要だ」という課題意識が生まれました。
そして、DMGという組織をプロダクト開発部隊からある種切り離し、より汎用性を持ったデータ基盤を構築していく、という流れになったんです。後から足していったプロダクトやデータ要素を、どうやって既存のデータ基盤とうまく組み合わせていくか、というところにずっと力を使ってきた感じです。コンパウンドスタートアップとして成長していくための、必然的な進化だったと言えるかもしれませんね。なので、僕が入社した時も「estieはデータの会社」という感覚では全くなかったです。
束原: そうだよね。創業時はデータの会社ではなかった。聞いてみたいのは、そのコアデータを作るフェーズ1の段階で、特に不動産データならではの苦労はありましたか?
青木: これは現在も難しいと感じている部分ですけど、業界内に統一された建物のマスターデータみたいなものがなくてですね。商品におけるJANコードや、人におけるマイナンバーのような、データを一意に特定するキーがない。同じ建物であっても、データソースによって名称の表記(アルファベットかカタカナか、中黒点「・」が入るか入らないか等)が違ったり、住所の表記が地番だったり住居表示だったり…と、とにかくバラバラなんです。
異なるデータソースから情報を集め、それらを突き合わせて「これは同じ建物のことを指しているな」と判断する「名寄せ」ならぬ「ビル寄せ」や、区画情報の粒度が違うものを合わせる「区画寄せ」といった処理を、自分たちでロジックを組んで行っています。どの情報を信頼するか、どうやって組み合わせるかのチューニングは非常に難しく、継続的な改善が必要です。これがestieのデータ品質のコアな部分であり、技術的にも非常に面白いところだと思います。
束原: かなり地道で大変そうな作業に聞こえるけど、そこに技術的な面白さや、やりがいを感じるメンバーが集まってる?
青木: そうですね。やらなくていいならやりたくない、という種類の大変さではあるんですが(笑)。でも、業界全体で見た時に誰もやっていなくて、なおかつ埋められたらお客様のユースケースを満たせる、より大きな価値を届けられることが見えている。しかも、それが「ギリギリ何とかなりそう」な、ちょうどいい難易度の挑戦になっているんです。estieって競技プログラミングをやってるメンバーとかも多いんですけど、そういうちょうどチャレンジングな問いがある状態に燃えるというか、「じゃあ自分がやるか」となるんですよね。
束原: データの持ち方、つまりテーブル構造などの設計も非常に重要ですよね。後から変えるのが難しい「重い負債」になりかねないから。
青木: まさにその通りで、データの負債は非常に重いです。estieでは、このコアデータユニットにアーキテクトの役割を担うメンバーがいます。彼らが中心となって、将来的なプロダクトの追加やデータソースの増加にも耐えうる、拡張性の高いデータ基盤の設計を行っています。
例えば、新しいデータパートナー様が増えた際に、既存のデータとスムーズに溶け合わせて、矛盾なく統合し、正しいデータを提供できるか、といった点。また、不動産データ特有の地理空間情報(ポリゴンデータなど)をどう扱うか、機械学習モデルが出力する推定値をどう組み込むかなど、考えるべきことは多岐にわたります。ベストプラクティスが確立されていない領域も多いので、常に試行錯誤ですね。ただ、そういうセンスがずば抜けてるアーキテクトが社内にいて、横で見ていて「何を食ったらこんな設計ができるんだろうな」と思ったりします(笑)。
オペレーションユニットについて
束原: 次に、オペレーションユニット設立の背景について聞かせてください。コアデータユニットがテック中心だとしたら、こちらは人の力が加わるイメージだよね。
青木: はい。実はestieの本当に初期オブ初期は、オペレーションでの検証を少し忌避してた時期がしばらく続いていたかなと思ってます。負債になりやすいとか、継続性という意味では資産化されていないんじゃないかというところで。
束原: できるだけ技術で解決したい、という思いが強かったですもんね。
青木: そうですね。一応、技術に自信があるメンバーを集めて、色々なデータを組み合わせたら、欠けている不動産データも綺麗にできるはずだ、と。我々ならいけるだろうと信じてテック領域にずっと投資をしてきた。ただ、コアデータを作る過程で、いくら高度な技術を使っても、「ガベージイン・ガベージアウト(質の低い入力データからは、質の低い結果しか得られない)」という原則からは逃れられない、という壁に突き当たりました。
100点を目指す上では、これ以上いけないラインみたいのがどこかで来てしまう。特に、インターネット上には落ちてない情報や、データパートナー様も持ってないような情報ですね。現実の世界には実際建物があるわけなので、それらの情報をできるだけ正しくデータに移したい。その欠けている部分を補完し、本当に「100点」に近いデータ品質を目指すためには、オペレーションによる人的なチェックや情報収集が不可欠だ、という判断に至ったんです。
束原: やっぱり不動産ってリアルに存在するものだから。どこまで行ってもソフトウェアの上だけでは完結しないところが絶対あるから。アメリカのCoStarさんはドローンを飛ばしまくって写真撮ったりしてますけど、本当に現地に行って、手足を使うことによる価値っていうのが強い産業なので、我々がやらずしてっていうところはありますよね。
青木: 「我々が作ったデータは本当に合ってるのか?」とか言って、オフィスの周りをチームみんなで歩いて、六本木中の怪しいデータポイントを全部検証したりしました。テックが吐き出したデータの質をどれだけ高めても、結局のところ正解は現実にある不動産それ自体なので。去年あたりからは本格的にオペレーションチームへの投資を開始して、テックとオペレーションの最適な組み合わせを見つけることを、今のDMGの大きなテーマの一つとしています。
束原: ただ人手を増やすというわけではない、ということですよね。
青木: そうですね。オペレーションで作ったデータが古くなったりして将来的に価値を失い、負債のようにならないように、テック側とオペレーション側が連携する工夫も行っていますね。例えば、生成AIがある程度サジェストしたデータ候補を提示し、オペレーターが最終確認・修正を行う、といった形で相互に補完しあっている。このテックとオペレーションを組み合わせて、交互に階段を登るように品質を高めていくスタイルが、データを100点に近づけていくと考えています。
データマネジメントプラットフォームユニットについて
束原: コアデータ、データオペレーションと来て、最後は社内向けのデータ基盤を扱うデータマネジメントプラットフォーム(DMP)ユニットですね。我々の場合、社内の経営データと不動産マーケットのデータがリンクしたタイミングがあって、そこで経営管理のためのデータプラットフォームみたいなものが求められるようになったわけだよね。それっていつ頃だったんだろう?
青木: DMPユニット自体は2年ぐらい前から存在はしていましたね。ただ、当時はどちらかというと、プロダクトの状態を正しく知る、というのが主な目的でした。どんどん新しいプロダクトが立ち上がっていく中で、例えばデモをしたお客様にちゃんとその後使っていただけてるのかとか、新しい機能が狙い通りに使われているのかとか、そういうプロダクトの状態を知るための基盤としての役割が元々は大きかったんです。
束原: なるほど、最初はプロダクト改善がメインだったんですね。
青木: はい。そこからだんだんと、会社の規模も大きくなって、プロダクトも増えて、契約数も当然大きくなっていく中で、PLやARRの管理をオペレーションの中でなんとか回している状況になってきて。そういうところを、安心して正しい数字をすぐに見れるようにしましょう、というミッションが去年ぐらいから加わってきました。コンパウンドスタートアップとして多くのプロダクトや顧客セグメントを抱えると、全体像を掴むのが難しくなります。プロダクト×ユーザーさんの組み合わせが増えすぎて、estieのメンバー同士でも頭で想像したものが合わない世界に来ている。目視で見ている場合じゃなくて、ちゃんとセンサー類を積むべきだと思っていて。我々はそれを「経営コックピット」と呼んでいるんですけど。
不動産という物理的で、人間の感覚が介在する物を扱っている以上、全てをデータドリブンに自動化するのは難しいと思うんです。でも、正しい情報を正しく知っている状態で意思決定すること、つまりデータインフォームドな状態であることは非常に重要だと考えています。コンパウンドスタートアップって業態がそもそも難しい挑戦ですから、難しいことをやるからにはコックピットにちゃんと投資しましょうよ、と。それがDMPが今一番向き合っているテーマですね。
束原: いやー、estieのデータ基盤もちょっとずつ進化してきたな、という気がしますね。estieが実現したい未来って、日本全体の不動産市場のデータと、我々自身の経営データがしっかりリンクしている状態だと思っているんです。
青木: まさにそうですね。今はDMPがどうしてもプロダクトを起点にした話になりがちですけど、やっぱり我々が向き合ってるのは土地と建物の価値なので、束原さんが言うような、不動産市場の情報と我々の事業活動のデータがうまく混ざり合っていく、組み合わされていくというのは、まさにこれからやっていくべきところです。
なのでDMPだけでなく、コアデータユニットとも密接に関わってきます。さっきまでのコアデータの話とDMPの話って、一見すると社外向けと社内向けで全然関係なさそうに聞こえるかもしれないけど、長い目で見ると繋がっている。例えば、最近取引があったお客様の情報が、我々の営業戦略や経営戦略を変えるかもしれないし、もっと引いた視点で見れば、我々が目指している業界全体の進化が進んでいるのか、不動産会社の皆さんがちゃんとハッピーになっているか、というのを見れるようになるべき。そういう意味で、DMG全体として、ちょっと違うミッションを追ってるようで、実は重なってる部分があるミッションを追ってるんだろうなと。
束原: 確かに。不動産マーケットって非常に流動的ですしね。例えば、今だと物流施設が少し供給過多になっている、みたいなマクロなトレンドが、我々の経営ダッシュボードにちゃんと反映されて、じゃあestieとして次にどこに投資すべきか、あるいは「ここにオポチュニティがあるのでは?」とマーケットに示唆を出していく、そういうことができたら理想的ですよね。DMGで働く面白さが分かってきました。
青木: DMGは直接レベニューを生む部門ではないから、売上への貢献を実感する機会はやっぱり多くないんですよ。じゃあ何が面白いのかといえば、もう少し引いた目で、estie全体のデータ資産のBS(貸借対照表)を作っているような感覚に近いのかもしれません。estieはデータ自体がある意味で「売り物」なので、そのデータ資産を元に、他の事業部がプロダクト化してPL(損益計算書)を作っていく、そのベースになる部分を担っている、と。そういうメタ的な楽しみ方になると思います。
束原: 自分が育てているデータが確実に誰かの価値になる、それを感じやすい会社であることは確かでしょうね。
青木: さらに引いた目で見ると、結局我々がやっていることって、商業不動産の業界全体のデータ部門みたいな役割なんじゃないかな、と最近は思っていて。ちょっとおこがましいかもしれないですけど、業界全体のインフラとなるようなデータ資産を作っている。そういう大きな役割を担っている、担っていかなきゃいけない意義を感じていますね。
DMGチームのカルチャーと求人メッセージ
束原:コアデータ、オペレーション、DMP、それぞれのユニットが連携してestieのデータ戦略を推進しているわけですね。そんな重要なミッションを担うDMGは、非常に多様なメンバーで構成されているけど、なぜそのようなチームになっているんだろう?
青木: それは、DMGが取り組んでいる課題が、単一のスキルセットでは解決できないほど複雑だからです。不動産データ特有の難しさ、テックとオペレーションの融合、社内外への価値提供…これらを全て満たすには、様々な専門性が必要になります。誰か一人が全てをできるわけではない。だからこそ、それぞれの得意分野で専門性を発揮するメンバーが、「点」ではなく「面」として、互いに連携し、協力しながら一つの大きな目標に向かっていく。そういうチーム構成が必然的に求められるんです。
束原: なるほど。課題解決のために、多様な専門性を持つメンバーが集まる必要があったということですね。DMGは現在も積極的に採用活動を行っているんだよね?
青木: はい、採用中です。estieが取り扱うデータの種類や量は増え続けていますし、対応するアセットタイプも今後さらに拡大していきます。不動産業界全体のデータ基盤を作るという挑戦は、まだまだ道半ばであり、やるべきことは山積みです。コアデータユニット、オペレーションユニット、DMPユニット、どのチームも新たな仲間を求めています。
スキルセットはもちろん重要ですが、それ以上に、不動産業界のデータという複雑で未整備な領域に対して、知的好奇心を持って挑戦できる方、そして多様なメンバーと協力しながら、業界全体の進化に貢献したいという熱意のある方に来ていただけたらと思います。何か特別なスキルが必要というわけではありません。あなたの持つスキルや経験が、必ずチームの新たな力になると信じています。
束原: 道のりは長いけれど、やりがいのある道のりですよね。
青木: そうですね。でも、楽しい道のりだとは思います。長い行程ですが、そのプロセス自体も楽しめる。この記事を読んで少しでも興味を持ってくださったデータエンジニアの方がいらっしゃれば、ぜひご連絡いただければと思います。
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