はじめに
こんにちは!estieの束原です。
この記事は estie 真夏のアドベントカレンダー 15日目の記事でございます!
これは何?
突然ですが、estieでは3~5年以内に事業責任者が10人近く必要になると考えています。現在estieの経営命題は、めちゃくちゃ強い事業責任者が10人乱立する体制を作ることです。
直近まで私は、estieの主力製品である「estie マーケット調査」に匹敵する柱を作りつつ、コンパウンドな価値を既存ユーザーの皆様に届けるべく、ある事業の事業責任者をやっていたのですが、先月その役割を2022年9月に入社してくれた勝田さんに引き継ぎました。
そんなタイミングも重なったため、このブログでは私が2年前に事業責任者を始めた時にはあまり意識していなかったものの、estieで2つの事業の収益責任や事業責任を負ってきた中で大切にしてきたことを、昨年のアドベントカレンダーの記事(PdMと事業開発って結局何が違うんや の続きとして書いていきます。
本当であればこういうドキュメントはもっと核心に近づいてから書きたいところですが、事業責任者という役割は本当に学びが多いので、一度それを文章にし、社内・外の読者からフィードバックがもらえたら嬉しいところです。
※ 下記はARR10億円に到達するくらいまでの事業責任者を想定した、比較的事業立ち上げ寄りの内容です。本質は大きく変わらないと予想していますが、きっと10を100にする際にはより生産性を高めること、チームマネジメントに意識が寄るでしょう。
事業責任者とは何か?
まず最初に、「事業責任者」とは何か。
会社によって微妙に期待・役割が変わる可能性があるので一応補足をしておくと、estieの場合は1事業のCEOです。特定の事業グループを会社に見立て、その中で「事業計画策定」、「採用」、「プロダクト開発」、「営業」を行いますが、その全てに責任を持つ役割です。
尚estieにおいて、事業責任者について定義されているドキュメントは「事業責任者の心得」(いわばマインド編)だけです。私もマインドセットが9割だと思っているのですが、このブログでは「マインドセット」と「能力」の中間くらい?に当たる、「日々の意識」について書こうと思います。
PMF前後を担う事業責任者として意識していること
私が事業責任者を担っている時に意識していることは大きく3つです。
① 4つの時間軸(今日、今週、半年、3年後)と、そこから逆算される自分の「角度」を持つ
② 今ここにある材料を頼りに、現時点でベストだと思う答えを最速で出す
③ リーダーシップは顧客との対話からしか生まれないと肝に銘ず
① 4つの時間軸とそこから逆算される自分の「角度」を持つ
まずはじめに、私は事業責任者を担っている時は4つの時間軸を持つようにしています。
「今日」「今週末」「半年後」「3年後」です。
今日と今週末は「短期」として一緒にしてしまうか悩みましたが、結構違うことを考えているので分けようと思います。
3年以上先のことは、早すぎる環境変化の中で考え過ぎても正直高いリターンが出ない気がしますし、5年かけて実現されそうなことは本気出して3年で実現したいので、一旦マインドシェアを落とします。
一つ一つ見て行きます。
3年後
一番大切な時間軸です。3年後、この産業はどのような姿になっているか?
この問いに対して「絶対に揺るがない抽象度の高い未来への確信」を持ち、それ以外の仮説は全部外してもいい、外野から何て言われても構わないくらいの気持ちの強さを持つようにしています。
後述していますが、この「絶対に揺るがない抽象度の高い未来への確信」がリーダーシップを生むと考えており、事業責任者がこれを失ったらその事業は終了、もしくは事業責任者交代だと考えています(そしてそれ自体も決して悪いことじゃない)。
そして、足元の意思決定は「3年後の姿を達成する上で回帰不能点(Point of No Return)を超えていないか」を都度確認します。
逆に言えば、Point of No Returnを超えない意思決定(半年後に修正できること)は、大胆に、とにかくスピーディに行っていきます。
悩んだらここに立ち返ってくるものなので、3年後に描いている姿は、「事業責任者の信念」とも言い換えられるかもしれません。
何故一定の抽象度を担保する必要があるかというと、具体の仮説やアイディアなんかは簡単に外れ、その具体に意識を載せすぎると外した時に船頭がブレ、チームがブレるからです。
事業を進めていくと、想定と異なることは無数に発生しますが、それを一々「失敗」などと表現しているとブレッブレになります。なので3年後の姿に抽象度の高さを担保しておけば、具体のアイディアなんかは外したとしても、「3年後の信念に一歩近づいたぜ」と前向きに捉えることができます。
半年後(当期末 or 来期末)
「今半期また次半期の事業計画を何としても達成する」という時間軸です。
恐らく世の中の事業責任者の脳内シェアとしてはこれが一番大きくなるはずだと考えています。
半年後の事業の姿を頭の中に鮮明にメージすると「高さ(プロダクトと顧客の状態)」が計測され、その高さと、残された時間から「角度」が逆算されます。
私はこの「角度」を常にペースメーカーにしています。
要するに角度=速さなのですが、速さは個別の施策と紐づけてイメージすることが難しいので、僕は「角度」でイメージし、今取り組んでいる施策一つ一つが「角度」に対してどのようなインパクトを持つのかをざっくりシミュレーションできるようにしています。
今週末
次に今週末です。計算してみるとビビるのですが、半年は26週間しかありません。
この1/26の時間でどのような進捗を出す必要があるかを考え、毎週どんな進捗が出せたかを必ず振り返ります。
そもそも、たった26週の間に仕込める弾(開発・施策)はいくつあるか?
仕込んでいる弾の「角度」への貢献度はそれぞれどの程度か?
今足踏みをしたら自分のペースメーカーである「角度」にどの程度影響があるか?
それらを悲観的に現実に落とし、全ての施策に納期を細かく切るようにします。
仮に2週間~1ヶ月かかる施策でも、「今週末時点ではどういう状態を作っているか」をチームで認識合わせができていると最高ですね。
今日
毎日発生する顧客との商談記録全てと開発の進捗に目を通し、自分が描いている「角度」に上ブレ要素または下ブレ要素がないかを確認します。
やや話は逸れますが、事業責任者は死ぬほど一喜一憂する生き物だと思います。土日に十分なコンディションケアを行って絶好調で月曜日を迎えても、火曜の商談を経て絶不調になるかもしれない。
その機微を俯瞰で捉えて、角度が1°でも下振れたと感じたら上向かすための弾(施策)を補充する。もしくはどうにかして実行スピードを上げる。
これは「マイクロマネジメントすべし」ということではなく、最も3年後の解像度が高いはずのある自分が、毎日発生する一つ一つの事象にアンテナを張り、微細だが重要なリスクとチャンスを察知できるように集中しよう、というイメージです。
めちゃくちゃ基本的なことなのですが、この角度の上・下を左右するイベントそのもの(大体の場合、真剣勝負である商談)を、一日という単位の中にどれだけ仕込めるか、も事業責任者の命題です。
② 今ここにある材料を頼りに、現時点でベストだと思う答えを最速で出す
次に、特にPMF前後の事業を担う際は「今ここにある材料を頼りに、現時点でベストだと思う答えを最速で出す」ことが重要だと考えています。
事業の立ち上げを行っていると、材料が完璧に整う瞬間なんてものはないことが分かります。
事業責任者に求められることは、「ついてきてくれているメンバーを漂流させないこと」です。今持っている武器と材料で戦いながら、足りない武器と材料があるなら自分でそれを集めに行く。
そしてこれを徹底するためには、無用なプライドを捨てることがセットで重要だと思っています。
事業責任者は、間違えることがめちゃくちゃ多いです。自分でも「何で気づかなかったんだアホか?」ということに後から気づいたりします。
そうした環境下で、「リスクを極限まで想定し、最もROIが高いところを見極めよう」というアプローチは一見冷静でカッコいいですが、もしかしたらステークホルダーに対する説明責任を果たすことを恐れているケースも多いかもしれませんし、恐らくドライブ力に欠けます。
これによる待機時間が長くなると、メンバーや既存のお客様は漂流を開始します。
従って、間違えている可能性も考慮の上でとにかく短い時間軸で検証事項を設定し、間違えに気づいた時には、仮にそれが意思決定した日の3日後でも1週間後でも、「すみません。やっぱこっちかもしれない!」とチームメンバーやステークホルダーに対してすぐに言えるか。
特に開発のメンバーには負担をかけるシーンが多くなるかもしれませんが、プライドや変なこだわりが邪魔をすると、もっと激しく無駄な時間を過ごします。
事業責任者としての「技術」が高い人は、経験やセンスにより、この間違いを犯す頻度が少ないのだろうと思います。私ももうLevel100くらい上げたいです。
③ リーダーシップは顧客との対話からしか生まれない
最後に、「リーダーシップ」と「顧客との対話量」の関係性についてです。
事業責任者には様々な要素が求められますが、どのようなスタイルで戦うにせよ、最も重要なのはリーダーシップだと思っています。
estieにおいてリーダーシップは「見えないものを見る力」と説明されることがしばしばあり(詳しくは「リーダーシップの旅 見えないものを見る」を参照)、この見えないものが見えている人がいるから新しい事業が生まれ、「なんか分からんけど、こいつには何かが見えてそうだぞ」と共鳴した人が集まってきます。
「見えないものを見る」なんてなんだかおこがましいですが、世の中にない事業を作っているのだから、多くの人には見えてないけどその人(事業責任者)には見えるものがあって然るべきとも思います。また、経営から事業責任を託された人が本当の意味で権限と責任を発揮するには、経営にも見えてないことが事業責任者には見えている必要があります。恐らくそうでないと経営のマイクロマネジメントが発生して双方苦しいことになる。
では、「見えないものを見る」ためにはどうしたらいいか。私の経験上、これは顧客との対話から見えてくるケースしかありません。
デスクトップ調査をしてマクロの動向を追ったところで、あまり大したものは見えてきません。デスクトップ調査で得られるモノは、もの凄く抽象度の高い仮説であり、3年後の到達点(信念)をかためるための粗い材料です。全ての出発点ではありますが、これだけでは何も始まらない。
答えのない問いに対して机の前で唸っていても無駄なので、とにかく自分なりの仮説を作ったら、「これでもか!」というくらいお客さんに会いに行くことをします。
そして最近良く思うのですが、PMF前後のサービスに賛同してくれるお客様も、大体の場合において顧客内部におけるリーダーです。お客様の事業の中で、見えないものがその人にだけ見えており、その人と共鳴することによってより「事業責任者の確信」が深まります。
事業のリーダーとして、全てを数値化し、数字でマネジメントできる状態は理想ですが、数字よりも早く出てくる先行指標は、そのお客様(リーダー)の発見とリアクションです。だからこそ、事業責任者こそ現場に行くことが重要だと考えています。
数字が出てきた後は、もはやそれは「見えないもの」ではなく「全員に見えているもの」になるはずです。 そのフェーズを迎えたら、今度はまた事業責任者が見えないものを見に行く旅に出る(新たな仮説を携えてお客さんと話しに行く)イメージです。 ※この見えないものを数字で見えるようにするのも事業責任者の仕事です(大変過ぎますね笑)
おわりに
あと10個くらい書きたいのですが長くなるので止めましょう。以上3点が、私が事業責任者をやっている時に特に意識しているポイントです。
この文章はやや勢いで書き始めたので、途中で想定読者を誰にするか迷走しかけたのですが、冒頭に書いたように一番はスタートアップで事業責任者をやってみたいと考えている人に届くと嬉しいです。
というのも、事業責任者というあらゆるステークホルダーに対して責任を持つ仕事は、めちゃくちゃ成長します。何よりめちゃくちゃ楽しいです。
5年かけても得られないような経験が1年で得られる可能性があります。私はestieの取締役としてビジネス部門責任者の顔もありますが、それとはまた異なる経験値(栄養素)があります。
勿論、上記は意識の話で、私も実際に徹底できていないことは沢山ありますし、全てを一人でやる必要はありません。ただ、上記のような意識で事業と向き合うと、きっと成果に繋がりますし毎朝飛び起きて出社することができます。
是非社内外で「事業責任者をやりたい」と考えている人がいたら、色々とディスカッションさせて頂ければと思いますし、estieでは沢山の事業責任者候補を探しているので、ご興味がある方は是非ご連絡を下さい! ではまた来年のアドベントカレンダーで!