estie(エスティ)は2022年1月12日、約10億円のシリーズA資金調達を発表いたしました。調達した資金を活用して、商業用不動産業界のデジタルトランスフォーメーションをより加速すべく、「estie pro」を拡張するマルチプロダクト戦略を展開。これを支えるべく、組織規模を1年で2倍以上に拡張させる計画を発表いたしました。
既存投資家であるグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)に加えて、新規投資家としてシリーズAラウンドに参画したのはグローバル・ブレイン。そのゼネラルパートナーである梶井さんにお話を伺いました!
- 「朝、楽しみで飛び起きるような仕事をしたいと思った」
- 「これは化ける会社だと確信したんですよね」
- 「このままだとせいぜいARR100億円しかいかないですよ」
- 「産業DXの台風の目になってほしい」
- オンラインイベントのご案内
「朝、楽しみで飛び起きるような仕事をしたいと思った」
——— 梶井さんのキャリアについて、簡単に教えてください。
(梶井)
私は昨年グローバル・ブレインに参画したのですが、その前は米系コンサルティングファームであるマッキンゼー&カンパニー(以下「マッキンゼー」)でパートナーとして、10年ほどTMT※セクターのリーダーを務めていました。コンサルティングファームからVCに転職した理由は大きく3つあります。
※TMT: テクノロジー・メディア・テレコム。いわゆる情報通信(IT)/メディア領域
1つは、朝目が覚めて飛び起きるような仕事がしたいということ。マッキンゼーでも面白いプロジェクトが多くあり、責任も大きかったのでやりがいはあったのですが、やはり何年もやっているとある程度定式化されてきますよね。次の10年、楽しみで飛び起きてしまうような仕事に挑戦できる領域はどこにあるんだろうと常に考えていました。
2つ目は、身近で優秀なタレントが、スタートアップ業界に多く飛び込んでいたこと。マッキンゼー時代の同僚だけでも、投資先にたくさんいらっしゃいますが、みなさん優秀でしたね。そして彼らが立ち上げようとしているビジネスについて本当に楽しそうに語っていたのをよく覚えています。
最後に、成長産業に身を置くことの重要性を感じていたことです。日本のスタートアップシーンは、今信じられない勢いで伸びています。投資額だけではなく、起業数、SaaSのARRなど、様々な数字の伸び率は20〜30%を超え、グローバルに見ても高い水準。日本経済の中でははっきり言って異常値です。
グローバル・ブレインでも年間120件ほど投資を行なっているので、投資委員会やその前段を含めて、週に数十件はピッチを聞くことになるんです。元々ビジネスモデルに関心がありコンサルティングをやっていたので、どの起業家の話も前のめりで聞いて、全部面白く聞こえちゃうんですよ(笑)。コンサルティングは良くも悪くも出来上がった産業で50を70にする仕事、スタートアップは0を10にも100にもする仕事で、そこに面白さを感じています。
——— 平井さんの自己紹介と、estieの紹介もお願いします。
(平井)
僕は三菱地所で海外の不動産投資を行ない、その後東京のオフィスビル事業を担当していました。2つの仕事のギャップがとても大きかったことを覚えています。東京にいながらニューヨークのデータは分析できるのに、東京にいても隣のビルのデータは手に入らないんです。必然的に、不動産会社から提案を受けるテナント企業も、必要な情報に必要なタイミングでアクセスできないため、業界全体として滑らかな取引が阻害されてしまっています。
そこで2018年12月にestie(エスティ)を創業しました。estieは、「産業の真価を、さらに拓く。」というPurposeを掲げて、巨大産業である商業用不動産市場のDXを推し進めています。企業の価値創造の中心であるオフィス、その100年後も続くデータインフラを打ち立てるというチャレンジです。リアル産業をデジタル化し、取引にまつわるデータフローをデジタルに再構築するのは難しいですが、やりがいのあるチャレンジだと思っています。(詳しくは2021年秋のICCで優勝したピッチがあるのでそちらをご覧ください)
「これは化ける会社だと確信したんですよね」
——— estieのことを初めて聞いたのはいつですか?いつ頃から投資したいと感じていたのでしょう。
(梶井)
マッキンゼーで一緒に働いていた橋爪さんが同社を退職するとき、僕に相談に来てくれたんですね。そのときにまだ入社してもいないのに「estieっていういい会社があって・・・」と嬉しそうに自慢してきたんです。
その後平井さんと会ってピッチを聞いたり、グローバル・ブレイン社内や不動産業界の人にヒアリングを重ねたりして次第に魅力的に感じていきました。業界関係者が「ここはすごい!業界を変えるぞ!」と語っていたのが何よりのポジティブ材料でしたね。
投資をしたいと思ったのは3つの理由があります。
1つは、面白いマーケットに面白いタイミングで参入していること。不動産業界は伝統産業の中でもIT化、DXの活用が「これから」の段階で、本来のポテンシャルを発揮できていない。DXの過渡期で「ゼロサムじゃなくてみんなが得をする」ような仕組みを作れる隙間がある巨大産業って中々残されてないんですよ。
2つ目は、経営チームや社員のマチュリティ。不動産がちょっと分かるとか、技術がちょっと分かるとか、そういうレベルで変革できる領域ではないと思うんですね。DisrupterではなくEnablerになる、革新だけではなく業界に寄り添う、といったバランス感覚がとにかくいいなと思ったんです。
最後は要素というよりタイミングなのですが、グローバル・ブレインのオフィスで百合本(代表)に対してピッチをしてくれたときに、「投資したい」というポイントになりました。猛烈に伸びているとはいえ、まだまだestieはアーリーステージの会社。それなのに平井さんは「1,000億円の会社にするまではこう、でも1兆円にするためにはこう」と本気で喋ってるんですよ。たぶんところどころ論理矛盾はあるんですが、人を惹きつけて巻き込む力を感じました。これは本当に化ける可能性のある会社だと確信したんですよね。
(平井)
その後、僕以外のestieの経営陣にも会ってもらいましたよね。岩成と束原はどういう印象でした?
(梶井)
そうそう。今度は僕がデューデリジェンスされたんです(笑)。
岩成さんからは僕に対する純粋な好奇心を強く感じました。マッキンゼーの戦略コンサルタントってどういう人なんだろう?どういうこと考えているんだろう?という無邪気な好奇心。技術力という面では、僕も実は大昔、A16ZのMarc AndreessenがMosaicを作っていたときコードを見たことあるような元エンジニア・ドロップアウト組なのですが、その目から見て岩成さんは名前とか肩書ではなく、腕一本で食ってきたんだと感じさせる凄みがありましたね。
束原さんは僕のことをよく観察している感じ。プロフェッショナルな印象で、実務はこの人が全部回しているんだろうなと感じました。最後に「梶井さんは仲間になってくれたら、ピュアに事業に興味を持ってもらえると感じました」と言ってくれたのを覚えています。
(平井)
偉そうなことを言ってますね。すみません(笑)。束原が言っていることじゃないですが、梶井さんはいい意味でVCらしくないですよね。構造的に起業家とVCの資金調達交渉って利益相反やポジショントークがありますが、本当に純粋に事業に興味を持っていただけた印象です。
あと驚いたのが、百合本さんも含めてビジネスディスカッションの時間をたくさん取ってくれたことです。僕や束原から不躾にも「1週間でみっちりビジネスディスカッションをしたい。提案書も出してくれ」ってお願いしたら、本当に何回も時間を割いてくれました。
その提案書がまた秀逸で、estieがぶつかるであろう経営イシューを先回りして書いてあるんですよ。その上で、不動産業界の顧客の業務バリューチェーンを分解して対策案も議論できる状態にしてくれていました。
「このままだとせいぜいARR100億円しかいかないですよ」
——— 束原だけじゃなく、平井もかなり失礼なことお願いしてますね(笑)
(梶井)
敢えてポジションを取りました。もちろん仮説を外すのは恐いんですが、当たり障りのないことだったら経営陣が日頃からよく考えているはず。本当に優れた経営者であれば、イシューの提示に対してちょっと違うなと感じても、思考を深めるきっかけにしてくれるはずだと思いました。
そう言えばその中で、「データ提供だけでは50〜100億円のARRしか作れないのではないか」という懸念をお伝えしました。マッキンゼー時代にもよく事例として見てきたので素直にそう記載したのですが、よく考えたらARR100億円ってすごい水準ですよね。
一口にDXと言っても、今estieが取り組んでいるような一企業内のDXと、企業間を結ぶDXの両側面があります。estieが産業変革を起こしていくときに、不動産業のバリューチェーンに沿って上流から下流までのペインを解決する複数プロダクトが必須になると考えていて、そこで鍵になるのが企業間のDXではないかと感じています。
(平井)
ここからのestieは既存の主力事業を急成長させつつ、マルチプロダクト戦略で顧客、業務フロー、そして対応するペインを複層化していく面白いフェーズになります。estieが持つデータを活用しつつ、業界の皆様との協力関係をフル活用しながら複数のPMFを繰り返していく必要があります。
アメリカのバーティカルSaaSでは、短期間で複数のプロダクト(広義には機能を含む)を立ち上げていく考え方が一般的ですが、日本での成功事例はまだ多くないと思います。それをestieが切り拓いていきたいですね。そのためにも、新規プロジェクトを一緒に進めてくれる人をどんどん仲間にしていかなければなりません。
またこれは感情的な話ですが、投資しようと交渉している会社に「このままだとARR100億円しかいかないですよ。経営上のボトルネックはここにありそうなので一緒に考えましょう」と言えるVCは胆力があって信頼できますよね(笑)。
(梶井)
マルチプロダクト戦略では、営業体制も開発体制も、従来のものとは全く新しい形を模索していかなければいけません。組織、仕組みの全てにおいて、一緒にいいものを作り上げていきたいと考えています。それらのプロダクトが全て繋がった世界では、estieが不動産業界全体の本来の価値を解き放つ存在であってほしいと思っています。ARR100億円を大きく超えていってほしいですし、その目線で経営陣と話ができて良かったと思います。
「産業DXの台風の目になってほしい」
——— 最後に、estieに対してメッセージをお願いします。
(梶井)
estieに期待していることは一つ。大きな産業を丸ごとDXしていく、その台風の目になってほしいと思っています。業界を進化させるべく、業界と一緒に譲れるものと譲れないものを整理して前に進めていく。そういったマチュリティの高いビジネスの作り方ができると考えていますし、巨大産業のDXにとってはそれが必須の要件になります。
estieのチームを見ていると、論理的には言語化できない「空気」みたいなものを感じるんです。明確な道筋ではないが、このチームであれば何かを為すだろうという目に見えない資産が積み上がっていて、それに優秀な人がまた惹きつけられていく。シリコンバレーで仕事をしたとき、「俺にも何かやれるかも」という空気が充満していたのを強く感じたのですが、estieの社内にも同じ空気がある。
10年後から業界を振り返って、歴史の転換点になってくれることを期待しています。
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estie(エスティ)は2022年1月12日、約10億円のシリーズA資金調達を発表いたしました。調達した資金を活用して、商業用不動産業界のデジタルトランスフォーメーションをより加速すべく、「estie pro」を拡張するマルチプロダクト戦略を展開。これを支えるべく、組織規模を1年で2倍以上に拡張させる計画を発表いたしました。
これに伴い、始動から3年足らずのスタートアップがシリーズAで10億円(累計14億円)もの資金調達を実施できた背景と、それを支える事業成長の裏側を語り尽くすイベントを開催します。投資家がどのようなポイントを評価し、estieに大きな期待をかけてくれているのかを赤裸々に公開いたします。
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