こんにちは。estieで執行役員 VP of Productsを担っているkubotakuです。この記事は、estieのプロダクトマネージャーによるブログシリーズ「PM Blog Week」第4弾 最終日の記事です。
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はじめに
6月24日(火)に「新規事業 PdM vs Bizdev どっちが重要?ガチンコ対決」というテーマでイベントを開催します。今回のBlog Weekはこちらと連動して、「PMとBizDevの違い」や「これから求められるPM像はどんなものか」について一連のシリーズでお送りしております。
ほかのPMの記事も含めて良かったら是非読んでみてください。
さて、私は今回、PM vs BizDevという観点ではなく、このAI時代の中で今後収束していく可能性のある“PMの類型のひとつ”である「BizDev型(一次情報取得型)PM」の存在について述べたいと思います。
変化したPMの“型”と役割の重心
AIによる変化を述べるのはもうそれ自体が陳腐化してしまっていますが、ここ数カ月の変化は更に著しく、その変化速度は幾何級数的に上がっていると感じさせるほどです。AIはプロダクト開発の構造を根本から変えている(た)と言えますし、もはや要件定義、プロトタイピング、MVP開発、ドキュメント生成といった「形にする工程」は次々に自動化され、従来“PMがやるべきだ”とされていた領域がツールやエージェントによって代替可能になってきました。
私は、この変化によって、PMに求められる役割の重心も大きく二極化していくと考えています。
その結果として、「点で価値を定義し、生み出すBizDev型PM」と、「構造にベクトルを与え生態系を創るアーキテクト型PM」の2類型に分かれていくことを想像しています。
「BizDev型PM」は本ブログの主題でもありますが、市場や顧客と直接向き合い、一次情報を起点に仮説を構築し、価値の源を作ることを担います。AIでは獲得しにくい「一次情報」へのアクセスを行い、そこから価値化を図る役割です。
「アーキテクト型PM」は属する市場やシステムの生態系の中で自社プロダクトがどう位置づけられるべきかを構想し、その進化のベクトルを定めることを担います。これは、生まれた価値の束や市場を取り巻く様々なプロダクトやシステムの中で「どう生かすか」の方向性を俯瞰して決めるものになります。特に、AIがそのシステムの成長速度を劇的に高めるとしたときに「その進化の方向性」をマクロに俯瞰した視点から見る役割は不可欠になると想像しています。
これは、繰り返しになりますが「形にする工程」がどんどん代替されていく中で、「一次情報取得と価値化というミクロ領域」と「生態系やシステム構想というマクロ領域」へとPMの役割が両極化し、その間にある要素を担うプレーヤーは振り落とされていくのではないかという仮説に基づいています。
上記の二つの類型はいずれも“AIによって代替されにくい”本質的な価値を持つ方向だと考えていますが、今回のブログではこのうち前者、「BizDev型PM」の思考と関与に焦点を当てて、その意義と実務上の振る舞いについて整理します。
一次情報の取得機会が希少化する世界
プロダクトマネージャーの仕事において「一次情報を得ることの重要性」は、これまでも繰り返し語られてきました。書籍やインタビューでもその必要性は強調され、すでに多くのPMがその価値を実感していることだと思います。
しかし、その「一次情報を得る」ということの意味と価値は今後大きく変わっていくと想定しています。それは特に「顧客の可処分時間を獲得する難易度の高まり」という点に色濃く表れると私は考えます。
まず、サービスの供給サイドという視点で言うと、モノを作るということが簡単になっていくことによって、以前よりプロダクトを供給するベンダーが増えていくことになります。それは開発力を持ちえなかった個人やちょっとしたコンサルがベンダーとして数えられるようになったことも含みます。
こういった変化で起きるのは、多数のベンダーによる「顧客の可処分時間の奪い合い」です。
需要サイド(顧客)で言えば、システム的な課題解決について都度ベンダーに助けを求めていたところから、AIに確認すれば解決することでベンダー接点が減りうるでしょう。また、顧客自身がエージェント開発に取り組むなど自らサービス供給サイドに回ることで、システムやサービスを必要とする機会そのものが削られる可能性もあります。
このように「顧客接点」の希少性が上がっていく世界では、これまでのようなやり方で一次情報を取得することは困難になっていきます。
「問いの精度」への要求の高度化
今までは、ある接点で十分な情報取得が出来なければ再訪するなど、「量」で担保することが可能でしたが、今後はそういった機会獲得の難易度が上がります。翻って言うと、情報取得の精度を高める必要があります。
そもそも、プロダクトマネージャーにとって「一次情報を取る」ことはそれ自体が目的ではなく、そこで得られる断片情報がどのような構造の一部なのかを明らかにすることが本質です。特に、AIによって多くのプロダクト開発プロセスが自動化されるなかで、その一次情報を“どの粒度で、どの構造を読み取るために得るか”は強く問われています。
対話の中で得られる微細なニュアンスや、制度や業務フローの背後にある非言語的な制約に気づけるか。あるいは、顧客自身が気づいていない課題の前提構造に触れることができるか。その精度が、PMとしての“問いの質”を左右します。
単なる情報収集者ではなく、構造の探索者として一次情報に向き合う。これまで以上にその精度が要求されていくのだと言えます。
PMが担うべき「顧客接点マネジメント」
顧客接点マネジメントは従来、営業やCSなどの顧客接点職のメンバーが担っていました。しかしながら、今後は、限られた機会の中で“構造的な情報を最大限引き出すための「接点の質的設計」”が、PMの顧客接点マネジメントの領域になりえると思います。
例えば、営業やCSなど他部門が築いた関係性を活かしながら、どのタイミングでPMが前面に立つべきかを見極める“バトンパス設計”も鍵となります。同席やインタビューの主導といった表面的な関与だけでなく、「この接点は何を明らかにする場なのか」「誰がどう振る舞うと構造的知見が得られるのか」といった意図設計に関与することが、PMに求められる役割です。
限られた接点を通じて「この会社と話すと筋が通る」「話が前に進む」と信頼されること。それが、選ばれるパートナーとしての土壌を育み、次なる接点へとつながっていきます。
PMはこれまでのような単なる情報収集者やインタビュアーではなく、“プロダクトを起点とした顧客接点の設計者”であり、“組織の問いの解像度を引き上げる責任者”になります。
その視点に立てるかどうかが、これからのPMにとって大きな差分になると考えています。
“一次情報の構造化”は変わらない価値
これまで顧客接点マネジメントが重要であるという話をしてきましたが、BizDev型PMの価値は、顧客とつながることではありません。多様な声や状況を前にしたときに、何を軸に判断し、どのような構造で理解し直すかという「構造化」こそが、PMに求められる固有の仕事であることは変わりません。
AIの進化により、情報の抽出や要約、文脈に応じたラベリングといったタスクは、すでに人間を超えるスピードと精度で実行できるようになってきました。 しかし、「この会話やデータは、どの前提のもとに、どのような構造で捉えるべきか」といった複数の文脈をまたぐ再解釈の設計は、まだまだ人間が担う領域です。
PMは、仮説の背景や構造を他者に伝え、「なぜこの判断をしたのか」「何をもとにその優先順位が生まれたのか」を説明可能な言語に落とし込むことで、組織に思考の軸を残す役割を持っています。
これは単なる情報整理ではなく、問いを設定し、視点を決め、判断基準を育てる営みです。
AIを補助として使いながらも、プロダクトの方向性を定め、意味ある仮説を構造的に組み立てていくプロセスは、PMのコアコンピタンスとして今後ますますその重要性を増していくと考えます。
だからこそ、それを支えるための「一次情報取得のプロセス・デザイン」がPMにとって重要な役割の一つになると考えていますし、両極化するうちのひとつの類型を支えるケイパビリティになると捉えています。
最後に
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回の話が今後のPMの在り方を考えるひとつのヒントになれば幸いです。
そして、どこかのタイミングで今度は「アーキテクト型PM」についてまた触れたいなと思っています。
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