2023年12月11日、estie(エスティ)は設立から5周年を迎えることができました。多くの仲間たちや、業界を代表するお客様、パートナー企業の皆様に支えていただいた結果であり、この場を借りて御礼申し上げます。
estieは、従業員数が79名となり、累計14億円以上のエクイティ調達や16億円の長期融資を中心としたデット調達、1つだったプロダクトが7つとなるなど、大きな成長を遂げられました。
この記事では改めて、estieが目指す「産業の真価を、さらに拓く。」というPurposeを通じて、どのように都市や地域、そして国家の未来を支えようとしているかについて改めてご説明させてください。
商業用不動産の本源的価値とは何か
商業用不動産とは、オフィス、商業施設、物流施設、データセンター、工場、ホテルなどの経済活動に使われる不動産の総称です。分譲住宅以外の全てと捉えていただいても問題ありません。私自身も、オフィスで働きつつオンラインミーティング(データセンターが稼働)をし、商業施設に買い物に行ったり、オンラインショッピング(物流施設が稼働)をしたりして生活しています。
このように社会経済の黒子として生産や消費を支える商業用不動産が向き合うのは、「誰にどのように使ってもらえると、最も経済価値が高まるか?」という問いです。「A社にオフィスとして貸すと月100万円の経済価値を生むビジネスをしてもらえる」「B社に店舗として貸すと月200万円の経済価値を生むビジネスをしてもらえる」という床の場合、B社の方が高い賃料を支払うことができます。このように、商業用不動産のビジネスは、社会全体の経済活動を最大化するような土地建物の最有効活用を目指す構造と言えます。
ただ、これは非常に難しい問題でもあります。計画を立ててから数年後に竣工し、一度建てると30〜50年はそのまま活用される建物が最有効活用されるためには、長期的な経済に対する視点を持ち、勇気を持って投資の意思決定を行う必要があります。これは投資や開発だけに留まらず、賃貸の意思決定においても「現在大きなビジネスを行なっている老舗X社」「未来の成長産業(かもしれない)Y社」のどちらにオフィスを貸すのが正しい決定なのか?現在はもちろん、今後数年間は誰にも正解が分かりません。
このように難しくも重要な、未来の都市の構造を規定しうる意思決定に、最も必要なのは先見性や勇気かもしれません。ただ、もう一つ確実に必要となるのがデータの力です。過去にどんな用途や条件の供給があり、条件が変わったときに需要がどう反応したのか?逆に需要の発生とともにその後の供給動向はどう変化したのか?こういった一つ一つの積み重ねが意思決定の背中を押すはずです。
データの分断が生む、価値の分断
不動産業界の現場では、このような社会のために魂を込めた意思決定が日々行われています。この仕事をしていると、日夜意欲を燃やす担当者と多く出会います。しかし、大きな問題があるのも事実です。業界の基盤としてのデータベースの不在です。
担当者は多くの業務時間を情報収集に費やしますが、残念ながらその8割はどこの会社の誰もが同じ情報を得るために汗をかいた時間となってしまう。独自のビューを確立するための情報収集は、結果的に2割ほどの時間しか割けていないということはざらにあります(しかも他のデータベースで検証できないため、その事実にも多くの事業者が気づけていません!)。BloombergやSPEEDAが存在する金融業界ではあり得ない状況です。
取引先間では紙やPDFをメールでやり取りしたり、口頭での情報交換が主流で、各社のオフィスではその打ち込み業務を重複して行っています。社内での情報供給も旧来型のシステムや、部署間で異なるシステムが邪魔をして、十分な効率でデータが共有できているとは言い難い状況です。このような状況下で、未来を見据えた意思決定を行なっていくためには、限られた情報、または限られた時間の中で実施せざるを得ません。
進化し続ける都市や地域は、進化し続ける経済を生む
土地や建物の最有効活用のため、個別の賃貸契約や開発計画が最適化されていく過程は、都市や地域が進化していく過程でもあります。未来に向けて誰にどんな用途でその場所で活躍してもらうかを定め、魅力を訴求して人や企業を呼び込むプロセスを通じて、都市や地域は時間をかけて未来へと歩を進めます。
先述したように、このプロセスによって(基本的には)経済的な生産は高まり続け、より多くの人や企業が引き寄せられ、財政が潤いインフラへの投資も促進されます。まさに、進化し続ける都市や地域は、進化し続ける経済を生むと言えます。
ここで一つ、意外かもしれない事実をご紹介させてください。世界最大手の不動産サービサーであるCBREの調査(Viewpoint Global Investment - Oct. 2017)によると、東京の商業用不動産の投資可能ストックはUSD711bnと、ニューヨークのUSD657bnを抑えて世界最大の規模でした。ちなみに大阪はUSD288bnで世界9位です。また、OECD city statisticsによると、2019年の東京のGDPはUSD1,872bn、広域ニューヨークはUSD1,776bnとこちらも世界最大です。このような視点で見ると、少なくとも過去の意思決定に関しては、東京(そしてそこで働く不動産会社)は一定の成功を収めてきたと言えるのではないでしょうか。
最強都市「東京」の死角
世界最大の経済都市である東京ですが、世界から選ばれているとは言い難い現状があります。こちらも世界最大の不動産サービサーの1社であるJLLの調査(Global Real Estate Perspective - Nov. 2023)では、東京は商業用不動産の都市別投資額(2020Q3からの3年累積)で世界第8位であり、多くの国際都市の後塵を排しています。実際に、日本の商業用不動産投資に占める外国資本の割合は円安下の2023年でも19%(Investment Market Summary Japan Capital Flow - Nov. 2023)と低く、世界から選ばれる都市と呼ぶには少し物足りない水準です。
東京のような大都市の設備やインフラを更新し続けるためには、莫大な投資が必要となります。このままでは都市の更新が止まり、さらに国際競争から取り残されてしまう恐れもあります。
これにはある一つの明確な理由があります。グローバルな投資家が投資対象としての都市の魅力を測る指標の一つとして、JLLが隔年で発表する「グローバル不動産透明度インデックス」というものが存在します。この指数は、世界94の国や地域、156都市の不動産市場を鳥瞰し、「パフォーマンス」「市場ファンダメンタルズ」「上場法人のガバナンス」「規制・法制度」「取引プロセス」「サステナビリティ」の6つのグループに基づいて、各国の不動産市場における投資のしやすさを指標化したものです。
執筆時点で最新版の2022年調査において、日本は世界12位と、前回2020年調査の16位から順位を上げて初めて透明度「高」と評価されています。2014年26位、2016年19位、2018年14位と、着実にランクを上げてきた日本の不動産市場の透明性評価ですが、未だに課題を抱えていると評価されるポイントがあります。それは「市場ファンダメンタルズ(31位)」「取引プロセス(33位)」です。
「市場ファンダメンタルズ」とは、「オフィス、商業施設、産業施設(物流施設・データセンター等)、ホテル、住宅、その他不動産市場の基礎的データ」と定義され、時系列データやデータプロバイダーの充実度によって評価されています。この指標で日本は世界31位です。すなわち、日本の不動産市場の透明度が低い大きな要因となっているのが、市場データへのアクセスが弱いことと指摘されているんです。
特に、これを支えるべき不動産テックの浸透度合について、日本は順位が公表される世界20位以内に入ることができていません。同じくアジアの国々として、6位のシンガポール(総合順位14位)、16位の香港(同16位)、16位の中国(同30位)、19位の韓国(同28位)、19位のインド(同36位)といった国々にも後塵を拝する結果となっています。
ちなみに「取引プロセス」とは、「売買の事前情報」「入札プロセス」「仲介会社の専門性」「マネーロンダリング対策」「テナントサービス」といった項目で評価される指標で、日本は世界33位ですが、他のアジアの国々も世界20位以内に入ることができていません。
都市の未来、地域の未来
都市や地域の経済力は、国の経済力に直結します。東京やその他の都市・地域が改めて世界から選ばれ続けるためにはどうしたら良いでしょうか。都市や地域の進化は一朝一夕では実現しません。未来を見据え、優秀な人材を呼び込み、産業を育てる必要があります。そしてその活動に、本来不動産業界は大きく貢献できるはずです。
例えば1890年、岩崎弥之助が取得したただの草むらだった丸の内は、今や20社のFortune Global 500企業の本社や、72社のグローバル金融機関を擁する堂々たるビジネスセンターです。同様に江戸英雄は、浚渫埋め立てや1968年の霞が関ビルディング(日本初の高層ビル)開発を通じて高度経済成長とその後の日本経済を支えました。今を生きる我々は、100年後の日本のためにどうしたら成長し続ける都市や地域を育てられるでしょうか。
僕たちestieは、不動産業界を支え、不動産業界とともにこの未来にチャレンジできる企業でありたいと考え、「産業の真価を、さらに拓く。」というPurposeを掲げています。このために実現したいのが、DaaS(Data αs α Service)、SaaS、Marketplace、ERPからなるestieのコンパウンドスタートアップ戦略です。
産業の真価を、さらに拓く。ために
5周年を迎えるestieは、六本木ミッドタウンに本社を移転します。食住遊が融合した六本木、何より『「JAPAN VALUE」を世界に向けて発信していくことを、街づくりのビジョン』としてきたミッドタウンから、企業が成長し続けるオフィスを体現していきたいと考えています。
ここまでお読みいただいたみなさん、6年目のestieもぜひよろしくお願いします!ぜひ私たちと一緒に働きましょう!!
期間限定で特設サイトも開設しているのであわせてご覧ください。