Brand new estie! 1年かけたリブランディングの舞台裏【プロセス全公開】


VP of Designの荒井(@rakenarai)です。
本日、estieは新たなブランドに生まれ変わりました。これに伴い、会社のロゴも以下のように一新しました。

新たなロゴは「estieが真価を拓いていく、“場”の象徴」です。

3つの青いオブジェクトは、「フロア」と「データ」の重なりを意味します。
唯一無二の土地にフロアを重ね、その真価が最大限発揮される「場」が創られていく様を表現しています。また、その原動力となるデータの層も表しています。
estieがあらゆる産業の根幹である商業用不動産の真価をテクノロジーの力で拓き、産業全体の真価をも拓いていく。そんな願いが込められています。

振り返ってみると、このリブランディングには1年を要しました。今は長きにわたって検討したものをリリースできてホッとする気持ちと、新たなブランドに込めた壮大な思いを絵空事では終えられない使命感を抱いております。

この記事は「折角の節目、リブランディングの理由やプロセスを記事に残そう!」という思いで書きました。
その背景には、私自身がネットに公開されている他社のリブランディング記事に助けられた経験もあります。初めてのことだらけで暗中模索状態の私にとって大変有り難い情報ばかりでした。かつての私が助けられたように、この記事が今後どこかの誰かの役に立てば嬉しい限りです。

網羅的に取り組み内容を記した結果、かなりのボリュームになってしまいました。ただ、その分リアルな舞台裏の様子をお届けできると思います。それでも足りない、もっと突っ込んだことを知りたい!という方はご連絡ください。可能な範囲のギリギリまでお答えします笑

それでは前置きはこのくらいにして、estieリブランディングの舞台裏、ぜひお楽しみください!

序章:機運の高まり

遡ること今から1年と数ヶ月。ブランドについて真剣に考えるきっかけは、2022年1月のシリーズAの資金調達と同時に発表した「マルチプロダクト戦略」でした。

それまでのestieは、マーケットプレイス型のオフィス移転支援サービス「estie」と、オフィスビルのオーナー・管理会社等の不動産事業者様向けの業務支援SaaS「estie pro」を開発していました。

創業間も無くから2つのプロダクトが存在していたので、「前からマルチプロダクトだったじゃん」と思われるかもしれません。
確かにプロダクトの数で言えば「マルチ(複数)」でしたが、「estie」と「estie pro」で挑むオフィスの移転や空室の値決めにまつわる課題は不動産にまつわる業務全体で見るとごく一部でしかありません。
なぜなら、不動産の長いライフサイクルには他にも沢山の業務が連なり、アセットタイプはホテルや物流施設・商業施設と多岐に渡り、不動産とそれにまつわる業務は日本に留まらないからです。
こう俯瞰してみると、たった2つのプロダクトでは不動産業務のごく一部しか支援できないことがお分かりいただけると思います。

商業用不動産が持つ真価はまだまだ拓くことができる、そう強く思うestieは「マルチプロダクト戦略」として以下3つの方針を掲げました。

  1. 不動産業で発生する様々な取引や業務への展開【バリューチェーンの観点】
  2. オフィスに限らない複数アセットタイプへの展開【アセットタイプの観点】
  3. 日本に閉じない海外への展開【エリアの観点】
マルチプロダクト戦略の概念図

詳細は平井の記事をご覧いただければと思いますが、端的に言うと2022年1月から「これまで以上にもっとスピーディに色んなプロダクトを様々な軸で展開していくぜ!」モードになりました。

www.estie.jp

そして、このモードをどうドライブしていくかを考えた時に、リブランディングの必要性を感じ始めました。

第1章:強いWhy

「いつかロゴ変えたいね〜」みたいな話、一度は社内で耳にしたことがあるのではないでしょうか?そして、気がついたらその話が立ち消えている経験もあるのではないでしょうか?

私は(estieに限らず)あります。

やりたいことは無限大・状況は目まぐるしく変わるというのはスタートアップの常で、そんな環境下でふわっとした「やれたら良いね」は大体吹き飛びます。まずは吹き飛ばされずにコトを進められるように、確固たる「やるべき理由」を考え抜くことが重要です。

ということで、まずはリブランディングの必要性を整理しました。調査や思考を繰り返すうちに、やるべき理由が3つ見えてきました。

その1:マルチプロダクトを支える最適なブランド戦略と相性が悪い

1つ目の理由に、マルチプロダクトを展開する上で最適なブランド戦略と既存ブランドの相性が悪いことがあります。

ブランド戦略は次の3類型でよく語られますが、マルチプロダクトを志向するestieにとって最適なブランド戦略は「マスター・ブランド」と考えました。ユーザーの皆様からいただく信頼や期待をコーポレート・プロダクト共通の「estie」という1つのブランドに集約し、困った時に必ず思い出される力強いブランドを目指すのが良いと思ったからです。

ブランド戦略の3類型

続いて、既存ブランドをマスター・ブランド化することを検討しました。しかし、これはすぐに課題が明らかとなります。

マスター・ブランドには象徴的なマークと展開しやすい構造が必要です。ツバメのシンボルマークとfreee 〇〇という名称でプロダクトを展開するfreeeが代表的ですね。

一方estieの場合、シンボルマークと名称の構造それぞれに課題がありました。
シンボルマークで言うと、従来の形状は「虫眼鏡+ビル」を合わせて「オフィスを探す」ことがモチーフとなっており、オフィス探しサービスの「estie」の特徴を色濃く反映しすぎていました。あまりに特定サービスのバリューに寄っているため、SaaSの製品群では与える印象が異なってしまうと考えました。
また、SaaSの「estie pro」の方には名称に課題があり、estie + proという2単語構成故の「estie pro 〇〇」と展開しづらい難点がありました。

その2:正しく会社と事業が理解されない

続いて2つ目の理由に、従来のブランドではestieが取り組む事業が正しく外部に伝わらないことがあります。

例えば、採用面談で会う方は高確率でestieを「オフィス移転支援サービスを展開する不動産テック」と理解しています。会社名と同名のサービスが存在し、それがオフィス移転支援サービスなのでそう思われるのは無理ないですね。

また、誤認を招きやすい一因は「estie」と「estie pro」の2つのサービス名称にもあるかもしれないと思いました。
「既存サービス名+pro」のようにproの名を冠する場合の多くは、通常サービスの法人版文脈か有料版文脈のいずれかに大別されます。
例えば「note pro」や「日経電子版Pro」であれば、通常サービスの法人版として存在しますし、「DeepL Pro」や「Studyplus Pro」は通常サービスの有料版として存在します。

しかしながら、「estie pro」は「estie」の法人版でもなければ有料版でもなく、一般的な「pro」のイメージと乖離がありました。
このように、「estie pro」は「estie」とは全く異なるバリュープロポジションを持つことが名称からは伝わりませんでした。

社内説明資料より抜粋

その3:表層的なクオリティに進化が必要

最後に3つ目の理由として、表層的なクオリティがあります。

estieのロゴが抱える弱々しさやバランスの悪さは以前から気になってはいたものの、「今取り組むべき課題じゃない」という理由で先送りにしてきました。しかし、シリーズAを迎え、存在感ある他社のロゴと肩を並べる機会が増えたことでその考えが変わりました。

これだけでは感覚的で漠然としているので、どのような観点で進化が必要かを明らかにしました。
例えば、文字色が無彩色に近い他社のロゴをリストアップし、estieのロゴの文字色の薄さを他社と比較してみました。黒のスケールごとにざっくりとマッピングしたものですが、estieのグレーが他社と比べてかなり薄いことが分かります。

もちろんこの結果だけでリブランディングの必要性を導くことはできないですが、他の人がその意義を感じる1つの情報にはなり得ます。

第2章:出会い

2022年6月、取締役会でリブランディングの必要性を説明して決議を終えました。
社内のメンバーだけでプロジェクトを進める余裕も知見もなかったので、外部のプロの協力を得る前提で承認を得ていました。

これから何年も苦楽を共にする新たなブランドを作る大事な取り組みですので、パートナー選びは大切です。私たちの思いを受け止めチーム一丸となって進めることができ、なおかつスタートアップへの理解もあるというのが理想でした。

その結果、思い浮かんだ会社が「PARK」でした。これまで手掛けられたクリエイティブはSNS等で目にしていましたし、その丁寧なプロセスも知っていました。PARKにお願いしたい、その一心で面識もない佐々木さんにTwitterでDMしたところ、ご快諾いただきご一緒する運びとなりました。

PARKの制作実績(一部)

第3章:インプットを制する者はアウトプットを制す

2022年6月にPARKとのキックオフが完了し、まずはPARKからヒアリングが行われました。
取締役やメンバーと丁寧に対話いただき、私からは会社の歴史や雰囲気、事業に関する情報をまとめた資料をお送りしました。

このプロセスの際に1つ意識したことは、自分の当たり前を疑うことです。
認知バイアスの1つとして「知識の呪い」とも言われますが、数年かけて獲得した事業領域の知識は常識ではありません。「AMって何?午前のことじゃないの??PMって何?午後のことじゃないの??」と思ってた時代を思い出しながら70ページに及ぶ説明資料を作りました。
(ちなみに不動産においてAMはAsset Managerの略、PMはProperty Managerの略として使われるのが一般的です。)

PARKの佐々木さんからも分かりやすい良い資料と言っていただけて何よりでしたし、現在この資料の一部は採用面談でも活用されているので作った甲斐がありました。内容が気になる方、エントリーお待ちしております!笑

少し話が逸れましたが、インプットを制する者はアウトプットを制すと思っている私はとにかくこのインプットフェーズはじっくりと丁寧に行いました。2ヶ月ほど対話を重ねた結果、イメージボード・プロダクト名称が決まり、新たなブランドのおおまかな方向性が定まりました。

議論の様子

各自が思うestieを表す言葉やイメージから新たなestieの輪郭を描いていくプロセスは初めての試みで、とても新鮮でした。すでにPurposeがあったため目指す方向性が各自で大きくずれてはいませんでしたが、イメージボード・プロダクト名称の議論を経て「私たちは何者か」の輪郭がよりくっきりした感覚がありました。

第4章:想定外のアレコレ

プロジェクト進行をしていると、その途中で想定外のやるべきことが出てくることはよくあります。

私は、HUNTER×HUNTERでキルアが神殿突入前に言う「わかったろ。いくら考えても考え過ぎなんてないんだよ。きっとまだまだあるからな!想定外の状況」という一節が好きでプロジェクト進行をする時に何度も思い出してます。
突然漫画から引用してしまいましたが、つまりはそういう事です。考え過ぎなんてことはなくて、どれだけ事前にいろんなケースを想定できるかが大切です。(案の定、神殿突入後は想定外のことだらけでしたね…笑)

リブランディングでも例に漏れず、想定外のことが発生しました。具体的には次の2つが当初見込んでいた以上に重い対応として現れました。

  1. 足りない商標区分の追加登録
  2. URL移行

丸ごと考慮できていなかったわけではないので傷は浅めでしたが、やはり想定外のことは発生するので何手先のことも先回りして考えるのは大切ですね。

足りない商標区分の追加登録

私たちはオフィス探しの「estie」を皮切りにスタートした会社で、その後「estie pro」をローンチし、ビルのオーナー様や管理会社様への導入が進みました。

このようにプロダクトが多角化してきた歴史があるのですが、商標登録状況を確認したところ登録区分が足りていないことが分かりました。会社の戦線の拡大に商標区分の登録が追いついていなかったのです。

急いで弁理士の先生と登録手続きを進めました。事業の多角化・ピボットはスタートアップでは日常茶飯事のため、権利化すべき商標区分を登録できているかの確認は大変重要です。リブランディング等の大きなイベントが無くとも定期的に行えると良いですね。

社内説明資料より抜粋

また、商標は出願から審査完了までに8ヶ月程度かかることを今回初めて知りました。タイミング次第ではさらに時間がかかることもあるようですので要注意です。さらに、図形の商標においては出願前に先行商標の検索を行い、類似性が認められないことの確認が必要です。図形の場合は出願の前に1ステップ挟まるのでこちらも要注意です。

URL移行

新たなブランド戦略とプロダクト名称が決まったので、URLをそれに準ずる形に変更する開発をスタートしました。しかし、ここでも想定外のことが発生します。

私が作っていたURL変更方針をVCに紹介いただいたSEOの有識者に確認いただいたところ、最適でないことが判明したのです。あるべきURLの形を作るには当初想定していた対応以上の工数が必要とされる大工事が必要とされました。
対応を洗い出したJiraを目にした時は頭を抱えましたが、彗星の如く現れたSREのsugitakさんによる助けが絶大で、なんとか移行し切れました。

頭を抱えたURL移行のロードマップ(一部)

この対応によって、従来存在していた3つのドメインを1つに整理することができ、あらゆるサイトがestie.jpのサブディレクトリかサブドメインで展開されるようになりました。
サブディレクトリとサブドメインで適切に分け、estie.jpのドメインパワーの最大化を達成しながら、新たなブランド設計をURL構造でも表現できたのは目立たないですがイチオシポイントです。

社内説明資料より抜粋

URL変更はインフラ作業が伴いますし、顧客への周知も必要です。また、SEOが重要な事業であればますます慎重さが求められます。不確実性だらけの領域だと痛感したので、かなり余裕を持ったスケジューリングが必要です。

余談ですが、はてなブログのサブディレクトリオプション付きのBusinessプランはとてもおすすめです。
estieのinside blogはこのプランで作っています。サブディレクトリで自社ブログを展開できるブログサービスは中々ありませんし、何より「資本金5,000万円以下または設立5年以内の法人」であれば1ブログ月間2万円程度で運用できるのが魅力的です。

ゼロからCMSを用いてブログを作る選択肢ももちろんアリですが、スタートアップでサクッとブログを作りたい、でもドメインの分散を防ぎたい、というニーズにはピッタリだと思います。

www.hatena.ne.jp

第5章:産みの苦しみの果てに

新たなイメージボードやワーディングが決まり、2022年10月頃からシンボルマークの制作が始まりました。当初は年内にほぼ確定するという見込みだったのですがそれは叶わず、難航しました。

初回の提案では方向性が定まりきらず、発散的な議論に終始してしまいました。2回目の提案時にある程度案は絞ったものの、「これしかない」といった確信じみた感覚を覚えられないまま年末を迎えます。

ドキドキしながら年末年始休暇を終え、年明けに3回目の提案が行われました。
結果として、この会が大きな転換点となり、突破口が見えました。打ち合わせの途中でPARK佐々木さんがillustratorを起動し、会議室の画面に投影しながら制作し始めた時は震えました。その場にいる全員がリアルタイムに形作られるシンボルマークにこれだ!という感覚を抱き、湧き立ったことを覚えています。

最終提案では、ディテールの調整を終えたシンボルを比較検討して決定しました。年末年始を挟んで計4回の提案を経て新たなシンボルに辿り着きました。

PARKには本当に辛抱強くお付き合いいただきました。自由にフィードバックを繰り返す私たちに対して嫌な顔一つせず、新たなクリエイティブで応えていただきました。
提案のたびに新たな可能性を産み出すPARKの腕もさることながら、私たちと一緒に良いものを作るという気概にチーム一同感服していました。

社内周知はシンボルマークが決まったタイミングで行いました。
リブランディングの進捗は都度共有していましたが、議論は取締役3名と私で行いました。他社ではメンバー全員を巻き込むこともあれば、代表だけで決めることもあるようです。意思決定スタイルは各社様々ですが、私たちは少人数で密度高い議論を行うために「取締役3名+VPoD」という形式を採用しました。一部のメンバーで進めた分、新たなシンボルの共有は詳細に行いました。

好意的なリアクションが多く、とても安心したことを覚えています。


第6章:デザイナー総動員の新ブランド適用作業

新たなブランドの在り方が決まった次は、その適用作業です。息つく暇もありません。コーポレートサイト、会社ブログ、プロダクトのUIなどなどその影響範囲はかなり広いです。

この広範な対応では、estieのデザイナーに助けられました。
estieには8名のデザイナーが在籍しています。スキルセットが多岐に渡るため一口に「デザイナー」と言って良いのか分からないレベルで各自が強く、それぞれが得意領域で躍動しました。

コーポレートサイトからは旧ロゴをベースにした虫眼鏡インタラクションが無くなり、新たなシンボルをモチーフにした表現が実装されました。会社ブログはデザインが一新され、新たなブランドの世界観が存分に表現されるようになりました。


また、新たなブランドカラーをベースにestieのカラーパレットが誕生し、UIやバナー、ポスター等のクリエイティブで指針となる表現の軸ができ上がりました。定義した色はライブラリとして社内に配布され、Figmaとプロダクトの開発環境から参照されています。


終章:これからのestie

こうして2022年4月から始まったリブランディングプロジェクトは本日完了しました。

最後になりますが、新たなブランドの始まりであり旧ブランドがその役目を終える日でもある今日、従来のロゴとその制作者に感謝の意を!
虫眼鏡とビルを模したロゴは創業から今まで最も長い期間活躍したクリエイティブです。estieはこのロゴと共にここまで成長しました。

このロゴを制作されたデザイナーを私は存じ上げないのですが、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました!ご本人まで届くと嬉しいです!!

これからのestieは新たなブランドと共に進みます。

「産業の真価を、さらに拓く。」

このためにestieは存在します。私たちは皆様と共に、歴史ある巨大産業の真価をさらに拓くことを目指しています。新たなブランドにはその覚悟と決意が込められています。

新生estie、よろしくどうぞ!乞うご期待!!

最後まで読んで頂き有り難うございました。これからのestieを一緒に作っていく方とお話しできることを楽しみにしております!

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