【DX対談】中央日本土地建物・estie 不動産DXの鍵:デジタル化と新規事業創出への挑戦

estieは、不動産デベロッパーや金融機関など不動産業界に関わる企業のDXや不動産データ、AI活用に関する課題を解決しています。本記事は、中央日本土地建物 事業統括部 DX推進室 総括次長 、CN Tech Lab の中瀬氏をお招きし、DXに関する課題と取り組みを中心にお伺いし、業界全体で変革を起こしていくきっかけを目指すものです。
中央日本土地建物が公開している『サステナビリティレポート(2024年3月期版)』を拝見しながら進行しております。(レポートURL: https://www.chuo-nittochi.co.jp/sustainability/pdf/sustainability_report2024.pdf)
1. DX推進室設立の背景とミッション
櫻井: 2024年4月に事業統括部内に新設された「DX推進室」の設立における背景とミッションを教えてください。
中瀬: 設立の背景には、経営層からの強いメッセージと事業環境の変化への対応が挙げられます。ある会議で、社長の三宅より「一時点を切り取った断面図のような数字の羅列では、社員の頑張りも、市場との乖離も判断ができない。きちんとデータを使って示してほしい」という話がありました。
そこから、自社にあるデータをきちんと整備・活用し、データに基づいた判断を行うことが会社全体で強く意識されるようになりました。そして「DXに取り組む」と言葉にするだけではなく、その本気で取り組む姿勢を社内外に示すことも意識して「DX推進室」が設立されました。
櫻井: 社長の強いメッセージがあった上で、それをどう形にするかを検討しDX推進室が設立されたのですね。

中央日本土地建物 事業統括部 DX推進室 総括次長、CN Tech Lab 中瀬氏
2. DX(デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション)の段階について
櫻井: レポートの中で印象的なのが、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという段階を自社できちんと定義されている点だと思いました。いま注力されている段階や取り組みがあれば教えてください。

中瀬: DXを段階に分けて定義を行うことで、認識がそろえられたのはよかったです。はじめは、役員間でもDXに対する理解や意識に差があり「業務効率化を目指せばいいのではないか」「いや、テクノロジーを活用して新規事業を創出しよう」など様々なレイヤーでの意見があったため、じっくりと話し合いながら目線合わせをしました。
現在、注力している段階はDX1.5のデジタライゼーションです。それまでは業務フローはあまり変えずに業務効率化などを進めるデジタイゼーションが中心だったのですが、ツールを入れるにしても自社の業務フローに合わせてカスタマイズをたくさんする必要があり、なかなかうまく回りませんでした。現在は単純な業務効率化だけではなく業務のあるべき姿を考えて、その実現のために従来の業務フローの見直しとそれに合わせた適切なツールの導入を進めています。まさにデジタライゼーションに取り掛かっているところです。
最近では、DX2.0である新規事業創出についても社内から自然と「このノウハウを使って何か外に打ち出していけないか」「あのベンチャー企業さんとこれを作って一緒に売れないか」といった声が出てくるようになったのは、嬉しい変化です。
櫻井: 業務フローをそのままにしてツールを入れるのはなかなか難しいとのことですが、デジタイゼーションの延長にデジタライゼーションがあるわけではないとお考えでしょうか?業務フローの変更が大きな差であるとすると、業務フローを変えないままデジタル化を推進しても意味が薄れてしまうのではとお話を伺って感じました。
中瀬: 単純な延長線上ではなく谷があると考えています。デジタイゼーションだけでは短期・表面的な効率化で終わってしまうことが多く、大きなイノベーションは起こせないと思っています。デジタライゼーションは効率化のその先の姿を描きながら進めるところに大きな差分があり、自ずと経営課題との関わりも密接になります。
櫻井: DXの推進は、経営企画や経営課題と深く結びつく話なんですね。
中瀬: そうですね。先日ニューヨークで現地のデベロッパーさんに聞いたのですが、彼らのDX責任者は経営と常に近いところにいるそうです。会社をどうしたいのか、経営としてどうしていきたいのかを形にする上で、DXやテック活用は切り離せないと強く感じています。
3. 事業価値向上、デジタルトランスフォーメーションに向けた挑戦
櫻井: 2023年8月にCN TechLabを発足されて1年が経ちます。発足の目的と現状を教えてください。
中瀬: 目的は、やはり最終的にデジタルトランスフォーメーション(DX2.0)を起こすことです。一方で、私も含め社員はDX2.0の経験がなく、いきなりイメージを描き、実践するのは難しいのが現状です。そこでまずは1〜2年、DX1.5のデジタライゼーションを着実に進めた上で、3年目頃からDX2.0の新規事業創出ができればと考えています。
櫻井: これまでに成果創出に繋がったものや失敗などがあれば教えてください。
中瀬: 現在、事業価値向上に直結するオフィスビルのNOI(Net Operating Income)の向上を目指し、スタートアップ企業などとともに適正賃料の自動算出に向けた取り組みを進めています。
また、オフィスビルにセンサーや顔認証システムを導入するなど、スマートビル化を推進するプロジェクトを複数走らせているのですが、導入後の具体的な活用方法を曖昧にしたままスタートを切ってしまったことは失敗でした。現在はシステム導入やデータを取ること自体に満足して終わらないよう、現場に対して「何のためにデータを蓄積する必要があり、どう活かしていくのかを考えた上で、ビルの価値向上につなげるところまでやりきってほしい。点で終わらせずにしっかりと線で繋いでほしい」と事前に伝えるようにしています。
デジタル化やデータ化だけで終わってしまうと次に繋がらないですし、プロジェクトに参加していない周りのメンバーは「お金だけ使って何をやっているのか」という雰囲気になってしまいます。新しいことにゼロから取り組むのは、前例がないため苦しくて大変ですが、会社にとって重要な意味のある挑戦です。その挑戦がきちんと理解され、失敗も含めて蓄積し結果に繋げて評価されるよう、これは口酸っぱく伝えています。
櫻井: 既存のサービスとアセットの価値を上げることが大事ということですね。DXのど真ん中を進まれているのが素晴らしいです。

株式会社estie マネージング・ディレクター 不動産担当 櫻井
4. オープンイノベーションの考え方と大切にしていること
櫻井: 新規事業創出など全く新しいものを社外パートナーと進める上で、大切にしていることは何でしょうか?
中瀬: 自社だけで何かをやり切るのは難しく時間もかかるため、全てを抱え込まずパートナーの皆さんと協業することによって見える世界やできることの可能性を広げられると思います。そこは競合他社であろうと「一緒にやっていきましょう」というのがCN TechLabのスタイルです。トップからも「今までにないことを実現させるために、社外の力もうまく借りて大きなことをやってほしい」と言われており、オープンマインドを軸として大切にしています。
また、デベロッパーという立場上気をつけるべきと考えているのは、発注者意識に陥らず常に対等な関係を構築するというスタンスです。「お互いに上も下もない、同僚と同じような感覚で議論できる関係を築こう」という基本姿勢はCN TechLabのメンバーにも繰り返し伝えています。開発の場面でも協力会社はパートナーであると常々社内で言われていますが、相手の方が遠慮してしまって何も言えなくなってしまう状態では結果的に視野を狭めたり機会損失になったり、当社にとってもプラスではないですから。
櫻井: 社内外問わず対等なパートナーであるということが重要なところですね。
中瀬: 先日の御社との打ち合わせは「パートナー」としてすごく良い形だったと感じています。これまで打ち合わせの場で発言が少なかったメンバーも主体的にディスカッションに参加していました。自分の中でこうしたいという具体的なイメージを持って、あれはできないか、これはこうやったらどうかと議論をしている姿を見て、まさにこのようにあるべきだと感動しました。
櫻井: 我々も皆さんがやりたいことを言っていただけると、それを実現するためには何が必要かを一緒に考えられるのでありがたいです。我々はテクノロジーやプロダクト開発、御社はデータや業務の知見を提供しあっていいものを作っていけるといいと思います。
中瀬: まさにそれをもっと促進させていきたいです。自社では保有しているデータの活用余地が分からず、データなんて使えないと自分達が思っていても、他社から見たら実はそれがお宝だったということもあるので、決めつけずにまずは周りに相談してみてほしいと思っています。また、導入したツールについてもっと自由な発想で色々なことを試してほしいです。御社のサービスも導入させていただいていますが、導入時に考えていたこと以外にもデータを使っていろいろな戦略が考えられるはずです。
櫻井: 何か目標を1つ決めてスモールステップで成功を積み重ねていくことが必要ですね。
中瀬: 気軽なチャレンジは大切ですね。失敗して当たり前、何か達成できたらラッキーくらいの考えで、まずはトライしていきたいと思います。
5. 業界におけるDXの課題と期待
櫻井: 業界におけるDXの課題と業界全体で解決していきたい部分はありますか?
中瀬: やはりデータの共有です。公開できないクリティカルなデータももちろんありますが、アメリカなどのように、もっとオープンになってもいいのではと思います。過度に閉鎖的な情報を囲い込むことはユーザービリティを阻害しますし、みんなでデータを持ち寄って適切にオープンにしていくことでステークホルダーからの信頼も得られます。結果的には業界を活性化して新たなマーケットを開拓していくためにも大切なことだと個人的には思います。
櫻井: なるほど。情報の非対称性は完全にはなくならないと思うのですが、積極的に解消すべきものもあると思います。社会全体でより良くできる部分に関してはオープンになってもいいのではというところですね。
中瀬: そうですね。何かを決める際にお互いが客観的なデータに基づく情報を持った上で議論したり、他社さんと比較したりすることで自社に足りないところも分かってくると思います。議論の土台となるようなデータ活用をして切磋琢磨していくことで、事業や業界を活性化しお客様の利便性も高めていければと思っています。estieさんがその立場を担ってくださることを期待しています。