オフィス移転の流れ【第2回】移転先の物件の検討と決定

中村 優文(Masanori Nakamura)

目次

  1. 新オフィスへの移転計画決行!移転先物件の選定における重要な要素とは?
  2. ソフト面(立地・周辺環境)
  3. ハード面(設備環境・ビルスペック)
  4. ソフト面とハード面から考える物件のコストパフォーマンス

本記事シリーズでは、オフィスの移転について大まかな流れから各フェーズの具体的業務の洗い出し、コスト感やスケジュール、各種申請になどについて特に繁雑な部分については掘り下げる形で複数回にわたって解説していきます。

今回は実際にオフィスの移転を行うにあたっての最も重要ともいえる部分である移転先物件の選定について、どのような選定基準を用いればよいのか、どのような物件が良物件なのかという点について、立地・周辺環境、設備・ビルスペックの2点における要チェックポイントを解説します。


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新オフィスへの移転計画決行!移転先物件の選定における重要な要素とは?

意外と水物?賃料の設定の仕方

本シリーズの前回記事ではオフィス移転の大まかな流れとスケジュール感について解説しました。

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今回はオフィスの移転について大まかな流れから各フェーズの具体的業務の洗い出し、コスト感やスケジュール、各種申請になどについて特に繁雑な部分については掘り下げる形で複数回にわたって解説していきます。

オフィスを移転するメリット・デメリットを整理し、いざ移転を決意したら、早速自分の希望にマッチする条件の物件の探索を始めていきましょう。 不動産物件を選ぶのに皆さんの大きな指標となるのが賃料です。しかしこの賃料には、エリアでの相場感や、新築ビルは高額になりがちなどわかりやすい基準もあるものの、それぞれの物件にあてがわれている賃料が果たして適正なのか否かということはなかなか判断がつきませんよね。

実はこの賃料設定、実際に賃料を設定しているオーナー側にも何か明確な決まりや基準というものが存在している訳ではなく、主には物件の立地やブランド力、築年数やビルスペックからなんとなく、もしくはオーナーが本物件で得なくてはならないNOIや路線価比などから逆算されているケースがほとんどです。

とはいえ、会社にとって一大のイベントとなるオフィスの移転には多額のコストが発生する上、ランニング費用として長期にわたり経営上のキャッシュフローを圧迫する賃料負担はなるべく抑えるべきですし、賃料を払うにも納得した額を払いたいものですよね。

そこで本記事では、オフィス移転における移転先の検討と決定のコツ・念頭に置くべき事項について、最も影響が大きい要素の一つである賃料(コスト)をオーナーが設定する際に考慮する「ソフト面(立地・周辺環境)」「ハード面(設備環境・ビルスペック)」の2つの観点から解説していきます。

ソフト面(立地・周辺環境)

重要なのはアクセス?ブランド?オフィスの立地・周辺環境が賃料に及ぼす影響

オフィスの移転においても、立地戦略上自分のオフィスがどこに位置しているのかということは、これまでの顧客との取引の容易さや、どんな人材と交流を生みたいのか、どんな業界と取引があるのか、どんな企業イメージを目指すのかなど、オフィスを移転する意義の大きな部分を占めると考えられます。

立地戦略に大きく影響!交通アクセスと周辺利便性

オフィスの賃料を上下させる大きな要因の一つに周辺の駅・バス停等の公共交通機関からのアクセスや、幹線道路からの侵入が可能かなどの車導線の充実さがあります。 最寄駅からの距離は特に重要です。都内であれば例えば東京、新宿、品川、池袋などのJR線のターミナル駅や、大手町、渋谷、六本木などの地下鉄主要駅からのアクセスの良さは従業員の通勤の容易さや取引先の来訪のしやすさに直結するため、公共交通機関からのアクセスの良さは営業効率や業務効率の向上にもつながり、社内的にも社外的にもメリットがあるといえます。最寄り駅が複数あることも大きなメリットと考えられますね。

移転先のビルそのもののピン立地だけではなく、そのビル・オフィスを取り巻く周辺の環境もオフィス選びにとっては重要な指標です。 例えばコンビニエンスストアや薬局、書店、文具店へのアクセスの良好さは従業員満足度に大きく影響すると考えられます。周辺に飲食店が多ければ昼食時にもランチ難民にならずに済みますし、業務後に軽く一杯、なんて時もお店選びにてこずる必要はなく、いつもの通勤ルートで帰宅することができますね。適度にランチや夕食の機会が増えれば、従業員同士の活発なコミュニケーションの活性化につながるかもしれません。

また、銀行などの金融機関や病院等の医療施設、郵便局や役所などが資金に存在するエリアも生活利便性が高いだけでなく、そういった施設が拠点を構える=比較的治安が良かったり、災害リスクが低い立地であることが多いため、それに伴い周辺相場よりも賃料目線が高いという事例も存在します。

イメージアップにもつながる?

オフィスを構えるエリア 移転先のオフィスをどのエリアに構えるかということも、オフィスのイメージ・ブランディングに大きく関わってきます。例えば、気鋭のIT企業であれば渋谷区にはGoogleやサイバーエージェントなど名だたるIT系のトップ企業が集まりますし、成熟産業の大手企業であれば、千代田区や中央区には三菱系や三井系の企業、政府系の銀行や大手商社が集まります。はたまたベンチャー企業であれば港区の五反田、学術系の研究室などであれば文京区本郷などがエリアのイメージと企業イメージがマッチしていますよね。

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同業界・同業種の企業が集めるエリアであれば、企業間の横のつながりが強くなり、業界のトレンドや動向をいち早く嗅ぎ取れますし、ただの同業他社としてではなくより良いライバル企業として存在感を示しあうことができますね。

それだけでなく、ある業界の企業が集まっているエリアにはその業界とシナジーの高い施設や機能が集積しているケースも多く、業務労率の向上にも寄与すると考えられます。例えば、出版業界のトップ企業が集まる中央区神保町には多くの書店・古本屋が集まっていますね。

また単純に都心5区といわれる一般的に賃料が高いイメージのいいエリアにオフィスを構えれば、それだけで企業のイメージアップにもつながります。例えば数々の名だたる企業が本社・本店を構える千代田区大手町・丸の内・有楽町エリアや、中央区の日本橋エリアはあらゆる路線のJRや地下鉄が乗り入れるだけでなく、ハイグレードなホテルやカンファレンス施設、フィットネスジムや病院などビジネスパーソンをバックアップするための機能がふんだんに存在し、そのエリアにオフィスを構えるだけで、国内産業内ではそれなりにプレゼンスのある企業であることをイメージさせることができます。

大手の外資銀行や外資コンサルが集結する港区六本木エリアにオフィスを構えれば、グローバルに事業を展開する企業であることのアピールにつながると言えますね。 企業イメージがアップすれば単純に業界内での存在感が増し、広告効果があるだけではなく、新たな人材の獲得や、逆に既存の従業員の満足度の向上にも寄与することで、離職率の低減にも一役買うことと思います。上記のようなエリアは都内でも賃料目線はかなり高いエリアになりますが、広告費と考えれば意外と費用対効果は高いかもしれません。

自らの会社の事業効率を上げたり、良いイメージ効果があったり、賃料が安かったり、災害リスクが低かったり、様々な要素を考慮しながら移転先のエリアを決定していくことが大切です。

ハード面(設備環境・ビルスペック)

従業員の執務効率に直結?移転先オフィスの設備環境とビルスペック

いわゆる一般的な企業では定時が設定されています。例えばある企業の定時を10:00~19:00だとすると、営業系の従業員に関しては外出も多いかと思われますが、事務系の従業員についてはその業務時間9時間中のほとんどをオフィスで過ごすことになります。

営業日がカレンダー通りの企業であったとしても年間250日弱、時間に直せば年間8,760時間の内、多い人でおおよそ2,250時間をオフィスで過ごしているのです。それだけの時間を過ごす執務室の環境は、当然に従業員のモチベーションやパフォーマンスにも多大な影響を与えていることは想像に難くありませんよね。オフィスを移転する際には、現状のオフィスよりも設備環境やビルスペックなどがより良いものになることが当然に望ましいと言えます。

ランニングの経費にも大きく影響?ビルの設備スペック

オフィスを移転するにあたって、移転先物件の設備スペックが理想に対して必要十分であるかの検証は厳密に検証する必要があります。

例えばビルの最上階にオフィスを借りたいとなったときに、高層階にオフィスを構えているにもかかわらず上層階への導線であるエレベーターの基数が少なければ、執務環境へのアクセスが悪くなりストレスになりますよね。オフィス移転についての前回記事でも触れましたが、現状のオフィスの問題点を洗い出し、それを新オフィスの候補物件の条件と照らし合わせることはスムーズなオフィス移転への近道です。

トイレの清潔さや空調の快適さはもちろん、車通勤をしている従業員が多ければ、駐車スペースも十分に確保することが必要ですし、IT系のサービスなどを提供している企業であればインターネット回線などの環境が整っている物件を選定する必要がありますね。 特に冷暖房などの空調設備は経年とともに劣化することで温度調節機能が低下するため年間の光熱費に対する快適度が低かったり、年々よりハイスペックな設備が開発され、費用効率もどんどん良くなっている設備が賃料の高い新築ビルには搭載されているため、賃料が安く設備の古くなった築古ビルに入居するよりも、高い賃料を払って最新の設備のあるビルに入居した方が、ランニングコストでメリットが生まれるということも当然にあり得ることです。

また、あまりにも築年が立っているビルは賃料が格安ということと引き換えに、旧建築基準法に基づいて建築されたものも存在し、そういった古いビルにはアスベストのような人体に有害な物質が建材に使われていたり、新耐震性に変わる以前のビルなどには、大型の地震に耐えるほどの耐久性がないものなどもまだまだ存在する現状です。築古ビルは建物として劣化が進んでいるため、立地の割に割安で入居できることもありますが、そういった執務環境では従業員も安心して業務に取り組めませんし、何より業務上のリスクを抱えることになってしまいます。

今や宝の山となった企業情報を守るセキュリティ設備

企業の情報や業務上の契約書などをいちいち紙ベースで金庫に保管していた時代と異なり、現代では様々な企業秘密を情報で一括管理するケースが多くなっています。言い換えれば、様々な重要データが一か所に集中し、かつ容易に一覧できる環境があるため、そのような大切な情報を、鍵をかけて金庫に保管しているようなセキュリティで守っているようでは非常に心もとないですよね。

新築の大きい物件では管理室棟に24時間管理人が常駐して見回りを実施していたり、各ドアやセキュリティラインに高画質の防犯カメラやオートロック機能・アンチパニック機能(施錠していても、内側からドアノブをまわすだけで解錠でき、扉を開けることができる機能)がついていたり、セキュリティ面でも非常に充実しています。

また、災害などの緊急時に対する機能も、オフィス移転時に考慮すべき点の一つです。特に三井不動産や三菱地所などの大手デベロッパーが開発した物件では、BCP(Business Continuity Plan)と呼ばれるような自然災害や大規模テロなどの緊急事態時でも、被害を最小限に抑え、中核事業の継続運営・早期復旧を行うための機能が充実しています。

BCP機能が完備されている物件では、そもそもの制震機能に非常に優れていたり、災害によりインフラが停止してもビルが自力で電力を供給したり、空調を維持したりすることが可能です。 こういった機能を兼ね備えた物件の賃料は高くなりがちですが、自らの事業を守るためにもと考えると、保険を掛けるといった意味では意味のある投資となるかもしれませんね。

ソフト面とハード面から考える物件のコストパフォーマンス

オフィスを移転するにあたって、企業が最も比重を置いて考えなくてはならないことはオフィスの移転が自社にどんなメリットをもたらすのか?コストに見合った効果があるのか?ということですよね。

しかし、実際にはそれぞれの企業が現状のオフィスに抱いている不満や抱えている課題はそれぞれ異なり、とある物件αへの移転は、A社にとっては費用対効果が大会かもしれませんが、B社にとっては全く意味のないものである可能性もあるのが当然です。

本シリーズの前回記事の中で、オフィス移転を行う際に最初のステップで行うことは「移転の目的をはっきりさせること」と書きましたが、既記の通り、各企業がオフィス移転によって改善しなくてはならない課題はそれぞれです。企業によっては最新のセキュリティが最優先であったり、業界内でのプレゼンスを高められるエリアへの移転が必要だったり、もしくは期間限定の暫定利用のためとにかく賃料が安い方が良いという企業もあるかもしれません。

ピックアップした物件への入居コストが負担するに値するか否かの判断は、各企業が抱えている課題をソフト面とハード面に分けて考え、上記のようなそれぞれのメリットと照らし合わせながら、理想的な物件選びを心掛けましょう!


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オフィス移転の流れ【第3回】スケジュール・計画作成のコツ

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WELL認証とは?取り組むメリットと審査項目、取得建物例も紹介

皆さん、オフィス探しにはどんな要素を重視していますか。値段ですか?立地ですか?広さですか?確かに安くて広い物件はいいかもしれません。しかし、社員の皆さんが求めているのは物件のコストパフォーマンスではありません。そのオフィスがどれだけ快適で過ごしやすいかではないでしょうか。


監修

執筆者
中村 優文(Masanori Nakamura)
経歴
早稲田大学大学院卒業。大学院時代では未踏スーパークリエータに認定される。その後、三菱地所に入社し物流施設のアセットマネジメントや営業に従事。 不動産業界の知見とエンジニアリングの知見両方を持ち合わせており、estie proのプロダクトマネジャーとして活躍。 フットワーク軽く社内イベントをよく開催する。
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