物流施設開発における“組織知”の構築──三菱HCキャピタルリアルティが挑む業務DX

三菱HCキャピタルリアルティ株式会社(以下、「MHCR」)は、リース・ファイナンスを中核に、不動産・インフラ・モビリティなど多様な領域でソリューションを提供する総合金融サービス会社である三菱HCキャピタル株式会社の不動産事業本部の連結子会社です。近年では不動産開発領域にも注力しており、物流施設の開発においても積極的な取り組みを進めています。
同社では、物流領域における不動産開発の精度向上と業務の効率化を目的として、物流施設の賃貸マーケット情報を網羅的に収集可能なサービス「estie 物流リサーチ」を導入しています。従来、個々人の経験や感覚に依存していた情報収集・分析業務を、誰もが再現可能な組織知へと昇華する取り組みが進むなかで、「estie 物流リサーチ」をどのように活用し、どのような変化を感じているのか。MHCRの不動産戦略事業本部 物流戦略開発部に所属するご担当者様にインタビューさせていただきました。
導入前の課題/導入を決定した背景
業務において、どのような課題を感じていましたか?
導入以前は、物件情報や賃料水準、キャップレートなど、物流施設に関する市場情報が担当者ごとに個別に蓄積されており、部署間での共有がスムーズに行えないという課題がありました。当部の担当者だけでなく、MHCR内の他の営業部を含め、それぞれが独自に情報を収集・管理していたため、全社での効率性や再現性に欠けていたという課題がありました。
特に、各営業部が引合を得た案件に対し、調査や評価を行う際に、必要な情報をすぐに確認できず、情報元へ個別に追加情報の依頼をしたり、過去の案件資料を手作業でさかのぼったりする必要があり、無駄な時間が発生していました。こうした状況では、属人的な知見に依存する場面も多くなり、業務の再現性や引き継ぎにも課題が残りました。
また、物流施設の開発候補地を検討する際の調査プロセスも非効率でした。例えば、あるエリアに物流施設を開発できそうな土地が見つかったとしても、その周辺の競合物件や空室状況、稼働実績、賃料相場などを把握するには、インターネット検索や地図を使った手作業、関係各所へのヒアリングなど、かなりの時間と労力を要しました。調査精度も担当者の経験に大きく左右されるため、同じエリアを扱っていても調査結果の網羅性や深度にばらつきが出てしまい、業務の再現性が確保できないという点でも課題を抱えていました。
そうした課題の解決策として、estieを選択した理由は何でしょうか?
各営業部や担当者によって個別に保有されていた情報の収集や判断を、組織として一元化・体系化する「組織知化」が必要だという共通認識が社内で高まりました。経験の浅い担当者でも一定の判断ができるように、誰もが同じ情報にアクセスできる環境を整備する必要があったのです。
加えて、「AM会社からの情報に頼るのではなく、自らcompsを探しにいくにはどうすればよいか」という課題意識もありました。従来は物件情報の取得そのものに大きな労力をかけなければならず、案件の初期検討の段階で十分な判断材料が揃わないこともありました。
そうしたなかで、地図ベースで情報を横断的に検索でき、物件の詳細データや募集履歴、周辺環境の情報までを可視化・比較できるツールとして「estie 物流リサーチ」に注目しました。全国をカバーする網羅的かつ最新のデータに簡便にアクセスできるという点に大きな魅力を感じ、組織全体での情報基盤を強化する第一歩として、導入を決定しました。
導入による業務の変化と組織的効果
導入により大きく変化した業務はありますか?
「estie 物流リサーチ」の導入により大きな変化があったのは、実査(現地調査)業務における準備工程と調査そのものの効率化です。導入以前は、現地に赴く前に、膨大な時間をかけて地図やインターネット検索で賃料や稼働率といった周辺物件の情報を調べ上げ、場合によっては社内で過去の資料を掘り起こすといった作業が必要でした。情報が断片的で整理されていなかったため、調査対象の選定にも時間を要し、結果として現地での動線も非効率なものになりがちでした。
現在では、「estie 物流リサーチ」上でエリアを指定すれば関連物件が一覧で表示され、地図上に視覚的にプロットされます。これにより、確認すべき物件の優先順位付けが容易になり、現地での効率的な実査も可能になりました。
かつては経験の長い担当者から「この物件も見ておいたほうがいい」と指摘されてようやく気づく物件も多く、情報の抜け漏れに対する不安もありました。現在では、地図上で視覚的に物件を確認できるため、確認漏れのリスクが減少したという声もあります。
さらに、物流集積エリアではなく、既存のマーケットレポートでは十分にカバーされていないエリアを検討する際にも、「estie 物流リサーチ」のデータが大いに役立ちました。競合物件の所在、募集賃料、稼働状況といった最新データが迅速に取得できるため、提案資料や稟議書の作成スピードも格段に上がり、社内での意思決定がスムーズになりました。
業務全体として、どの程度効率化されたと感じていますか?
導入後は、「このエリアで空室になっている物件はどこか」「最近新たに建設された施設はどれか」といった情報を即座に把握できるようになりました。インターネット検索や現地ヒアリングに費やしていた時間が大幅に短縮され、これまで属人的な判断に頼っていた部分も、データに基づく判断へと変化しつつあります。
特に実査業務では、地図上でのルート可視化によって「どの順で回るべきか」が明確になり、現地調査にかかる所要時間も短縮されています。以前は準備に1時間以上かかっていた業務が、15〜20分で完了するようになり、業務スピードの体感値としては5〜10倍にまで向上したとの声があがっています。
このように、「estie 物流リサーチ」の導入は、情報収集の手間を減らすだけでなく、現場の意思決定力を高め、組織全体としてのスピードと再現性を底上げする重要な転換点となりました。
「estie 物流リサーチ」の具体的な活用シーン
実査や案件検討の際に、どのように役立っていますか?
まず実査業務において、大きな効率化を実現できたのが事前準備のフェーズです 。対象エリアにどのような物件が存在し、それぞれがどのようなスペック・条件で募集されているかを把握することで、現地での確認項目が明確になります。無駄のない調査計画を立てられるようになり、現地での調査精度も向上しました。特に、地図上で物件が視覚的にプロットされる機能は非常に有効で、これまでのように紙の地図やインターネット検索を何度も行き来しながら情報を照らし合わせる必要がなくなり、調査ルートの設計が格段にスムーズになりました。また、募集条件や稼働状況、延床面積といった複数の条件をフィルタリングし、物件毎に並び替えて比較ができるため、複数エリアの情報を横断的に検討したい場面でも、スピーディかつ的確な判断が可能になっています。
次に、三菱HCキャピタル(弊社親会社)のリース営業部門からの連携で「この土地に物流施設を建てられないか」といった相談を受けた際、具体的な情報提供がない段階でも、「estie 物流リサーチ」を開いて周辺エリアにおける物流施設のストックや、直近の開発事例、募集賃料の傾向、空室率といったデータを主体的に確認できるようになったことで、事業性の初期判断を早期に行えるようになりました。
従来であれば、営業担当から引き合いを受けた後に手探りで情報を集めながら検討を進めていく必要があり、エリアの特性を掴むまでに時間と手間がかかっていました。今では、「estie 物流リサーチ」を通じて、検討対象エリアの成約実績や類似物件との比較を行い、プロジェクトの可能性やリスク要因を社内で早期に議論できる体制が整ってきています。
稟議資料作成への活用についてはいかがでしょうか?
稟議申請の際には、検討している物件の妥当性や投資判断の根拠を、定量的なデータに基づいて説明する必要があります。これまでは、外部のマーケットレポートや自社が過去に作成した資料をもとに、対象物件と比較対象を探し出し、必要な情報を抜き出して整理するという、煩雑かつ属人的な作業が発生していました。情報の網羅性にも限界があり、見せられる資料として成立させるまでに相応の時間と手間がかかっていたのが実情です。
現在では、「estie 物流リサーチ」上で最新の物件情報を検索・抽出することで、類似する規模やスペックの物件を効率的に洗い出し、比較の視点を明確にした資料作成が可能になっています。特に、築年数や延床面積、立地特性などの条件でフィルタリングできるため、稟議の目的に応じた適切なcompsを提示しやすくなりました。
加えて、単に数字だけを並べるのではなく、視覚的に地図上で競合物件との距離感や分布状況を見せられる点も、社内での説得力を高めるうえで非常に有効です。社内の関係者も「エリアの状況が直感的に理解しやすくなった」と評価しており、稟議のスムーズな通過や意思決定の迅速化にもつながっています。
今後に向けたDX推進の展望
estieに期待することがありましたら教えてください。
現在の「estie 物流リサーチ」の機能に対しては、日々の業務におけるデータ確認や議論の下地として活用できる点で、社内でも「なくてはならないツール」として定着してきました。一方で、さらなる進化にも大きな期待が社内から寄せられています。特に要望として挙がっているのが「成約賃料」や「キャップレート」など、フロー系データの拡充です。
例えば、募集賃料が4,000円であっても、実際の成約賃料が3,500円であれば、その差分にはエリア特性やテナントの交渉力、施設スペックの違いなど、さまざまな背景が潜んでいます。こうした“肌感覚”で補っていたギャップを、客観的な数字として把握できるようになれば、案件評価の精度が飛躍的に高まるはずです。
現在、MHCRではExcelベースで成約情報を独自に集積していますが、今後はこれらの社内データをestieのサービスと連携させて一元化・可視化できれば、意思決定のスピードも質も大きく向上すると感じています。実際、地図上で募集と成約の両方を並列して確認できれば、比較検討や相場観の形成が格段にスムーズになります。
将来的には物件の属性情報(用途、坪数、テナント業種など)を含めた分析も視野に入れています。期中の収益性評価や、エリアごとの需給動向の傾向を掴むうえでも、データの多層化は不可欠です。estieが持つインターフェースの直感性を保ちつつ、こうした情報が深掘りできる構造になれば、開発・運用の各フェーズで意思決定の支えとして、ますます重要な存在になると期待しています。
これまでも弊社からの要望に対して真摯に耳を傾け、都度アップデートを重ねてきたestieの開発スタンスに、高い信頼を寄せています。「使い手の声を取り入れながら、一緒により良いツールを作っていく」という姿勢に共感し、今後もさらなる業務の高度化を一緒に目指していきたいと思います。