地方へのオフィス移転【課題】メリットとデメリットとは?

田中 陸(Riku Tanaka)

目次

  1. 地域再生法によるオフィス移転の効果とは
  2. 地方へオフィスを移すことのメリット
  3. 地方へオフィスを移転することのデメリット
  4. なぜ地方へのオフィス移転は進まないのか?

地域再生法によるオフィス移転の効果とは

2015年に施行された「地域再生法」という法律を皆さんはご存知でしょうか? 本法律は東京や大阪などの国内大都市圏への全国からの労働人口を中心とした人口の大量流入が起こることによって、待機児童や地方の過疎化などの誘因的に引き起こされる問題へのソリューションとして編み出された法案でした。

本法律が立案される以前では、実際に地方の仕事不足により生活がままならなくなった多くの人々が地方を出て上京するという状況であり、地域再生法が施行される直前の2014年は、地方では人口の流出が過去最高となった年でもありました。

この「地域再生法」のある種目玉的な一要素であったのが、都内企業の地方移転の推奨でした。当時懸念、及び都市近郊への人口集中の主な原因とされていたのが地方での雇用の少なさでした。日本政府はこの法律の施行によって地方での雇用の創出を実現しようとしたのです。

田舎

具体的な政策としては、法律の中に「地域拠点強化税制」というものを設け、都内から地方へオフィスを移転する企業に対し諸々の税理的メリットを供給するように定めたのでした。 そんな地方再生法が施行されてから約5年、実際に都内から地方へオフィスを移転する企業は増えたのでしょうか?

実際には施行からの5年間で、地方にオフィスを移転した事例の総数は、当初の政府の目標のおおよそ5%程度にとどまったそうです。これは、地方へのオフィス移転は実際にはメリットは多くないということの裏返しなのでしょうか?今回の生地では地方へのオフィス移転のメリットとデメリットについて解説していきます。


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地方へオフィスを移すことのメリット

サテライトオフィス、なんて言葉がこの世の中で市民権を得てからは久しいですが、昨今ではリモートワークなどへの考え方の変化や働き方改革、またIT環境の整備も企業経営における重要かつマストな課題として認識されるようになってきました。わざわざ都心などのこれまでの「ビジネスをするならここ!」という概念が覆されつつあることで人里離れた地方でもビジネスを行うことも全く不可能ではない時代となりました。

実際に近年では地方にオフィス拠点を構えることや、自営業のビジネスパーソンの間でも地方でビジネスを営むことに安心を持つ人は年々増加傾向にあるようです。 地方にオフィスを構えることのメリットはメンタル面でもビジネス面でも多く語られています。

例えばビジネス環境の話で言えば、わざわざ住み慣れた地元を離れずに高齢になった親の近くで働けることや、オフィス・住居の両方について言えることですが、拠点を構えるために係るコスト(単純に言えば家賃など)が都内近郊に比べ非常に安いというメリットがあります。また、例えば自宅からオフィスまでの通勤に自動車を利用すると仮定すれば、免許取得や自動車の管理維持費というランニングコストは発生するものの、都内で働くビジネスパーソンにとって大きなストレスとなるであろう満員電車や乗り換えなどのストレスの軽減につながるケースもあると考えられます。

会社そのものにとってのメリットで言えば、例えば本社は都市圏、その一部を地方に移転することを想定しているようなケースであれば、都心のオフィスが被災した時などには地方にある営業機能はBCPとして大きな効果を発揮すると思われます。

上記で上げた地域再生法における税務メリットで言えば、移転を迎え入れる地方自治体側には非常に暑い待遇を用意している自治体も多いことも特筆すべきでしょう。例えば、長野県はほかの自治体から県内へオフィスを移転してくる企業に対しなんと法人事業税をなんと3年間の間95%も免除しています。その他にも石川県富山県などでは、不動産を購入しオフィスを新設する際に想定される固定資産税や不動産取得税に減額措置を設けている自治体も存在します。移転先のエリアに長く腰を据えてビジネスを営む想定の企業には非常に強い味方になります。

地方へオフィスを移転することのデメリット

上記で上げたように、昨今では多くの企業やビジネスパーソンが地方で働くことに興味を持っていて、それを社会が促進する環境が現代には整いつつあることがわかります。では反対に、地方へオフィスを移転する際に認識しておく必要があるデメリットには一体どんなものがあるでしょうか?

最も大きく影響してくるものであればコストとアクセスの二点でしょう。 オフィス移転についての連載で解説しているとおりオフィス移転はそもそも自治体への報告や業者の手配など非常に煩雑な作業を伴う上、コストも安いわけではありません。

都内は昨今の景気もあり賃貸オフィスはハイスペックなものも多くインターネット環境は基本的に問題なく、家具も備え付けであるものなども存在します。しかし、地方に移転するとなれば移転先物件の質や量などは決定的に違ってくる上、場所によってはインターネット環境が満足いくものではない可能性すらあることもあります。

フットワークの軽いベンチャー企業などについては効率的な解決が望める問題かもしれませんが、従業員などを多く抱える大企業などにとっては移転により大きな組織改編を余儀なくされるケースも珍しくなく、大きなネックとなり得ます。

アクセスの観点で言えば、サテライトオフィスを想定した場合には仮に企業内で研修などの集会などを催す際には地方で働く従業員はこういった会合に参加しづらくなっています。オンライン会議システムなどで代用できるものは良いかもしれませんが、現代のすべてを完全にオンラインやリモートで実施するのにやや無理がある現状では不都合が発生しうる可能性が低くありません。 この地方へのオフィス移転における大きなデメリットであるこの二つはメリットとも背中合わせであり、また移転する企業の業種や規模感によってもメリットやデメリットは大きく異なってくることがわかります。

なぜ地方へのオフィス移転は進まないのか?

上記で地方へのオフィス移転のメリットとデメリットの例、そしてそれぞれは中合わせであり、それぞれの企業が享受することのできるメリットと、被るであろうデメリットは異なるということを解説しました。ではそもそも論として、なぜ2015年に国を挙げ地域再生法を作り上げたにも関わらず、政府の思惑はうまくいかなかったのでしょうか。

当時、日本政府は2020年までにおおよそ7,500もの法人のオフィスの地方移転を目指しこの方針を打ち出しましたが、2019年末での調査ではその時点で地方へのオフィス移転を実施した法人はわずか350社強とのことでした。 ほとんどの法人がこの制度を利用する・しないに関わらずオフィスの地方移転を行わない主な理由としては、「思ったよりもメリットを享受することのハードルが高い」というものでした。

特に本社機能の移転という観点ではまだまだ大都市圏にオフィスを構えることの立地的メリットが大きいため、上記法案で定められているような税務メリットなどと天秤にかけても移転をしない方が結果的にプラス、という企業の方が多いのです。税務の面でも、確かにメリットは存在するものの、その対象となるためにある一定の条件を満たさないといけないことは確かです。一方で近年では時代の潮流も後押しし、コマツYKKなどといった、業界の中でも大手と呼ばれるような企業でも本社機能の中枢となるような部門の地方移転を実施している事例もあります。

現状として、日本国内の人口分布をみても東京への人口の集中は大きな社会課題であり、企業法人の視点から見ても近年オフィスの空室率はどの町もかなり低水準で推移していることからその過密度は伝わってきます。実際問題地方へオフィスを移転しメリットを十分に享受するには上記のように自らの現状をよく考慮し、想定されるデメリットとよく天秤に抱えることが重要ですが、大きな環境の変化を作る、という意味では地方へのオフィス移転はまたとない機会になります。

冒頭で取り上げた地域再生法の税制の優遇も本来であれば2019年で終了予定だったものですが、状況を鑑み政府は本制度の期間をさらに2年延長することをすでに決定しています。もしも今現在地方へのオフィス移転やサテライトオフィスを開設しようと考えているものの、これという決め手がなく悩んでいる企業はこのタイミングで思い切って地方へ進出するのも一つの手かもしれませんね。


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監修

執筆者
田中 陸(Riku Tanaka)
経歴
東京大学経済学部卒業後、住友不動産入社。オフィスビルのアセットマネジメントを担当し、海外事業部にて世界主要都市の市場調査や投資検討に従事。 estieでは、セールスマネージャーとして営業や事業開発を手がける。 ベンチャー感を出すため、ヒゲと伊達眼鏡をトレードマークにしている。
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