「不動産DXカンファレンス2026」開催レポート(前編)

2026年9月11日(金)、東京ミッドタウン・ホールで「不動産DXカンファレンス2026」を開催しました。3回目となる今年は、3会場で基調講演と16のセッションを実施。不動産デベロッパー、アセットマネジメント会社、機関投資家、行政、テクノロジー企業から、意思決定の最前線に立つ方々にご登壇いただきました。予約の段階から満席となるセッションが相次ぎ、当日は約1,300名の方にお越しいただき、立ち見の出るセッションもありました。

本レポートは前編と後編の2回に分けてお届けします。 なお、登壇者の所属・役職は、いずれも登壇時点のものです。

開催概要

項目 内容
名称 不動産DXカンファレンス2026
開催日 2026年9月11日(金)12:00〜
会場 東京ミッドタウン・ホール(現地開催のみ)
来場者数 約1,300名
主催・運営事務局 株式会社estie
後援 国土交通省、一般社団法人不動産協会、一般社団法人不動産流通経営協会、一般社団法人全国住宅産業協会、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会、公益社団法人全日本不動産協会、一般社団法人不動産証券化協会、日本政策投資銀行

AIは「導入するもの」から「前提」へ

DXの議論は長らく「何のツールを入れるか」でした。今年は、AIをツールとして導入する段階を越え、経営戦略や国の制度設計の前提に置き直す議論が繰り返し出ました。

【基調講演】不動産×AIは国家戦略になり得るか 〜データ基盤から始まる都市再設計〜

第一会場 12:00〜12:50

  • 梶原 輝昭 氏(国土交通省 政策統括官(税制、地理空間情報)/内閣官房 地理空間情報活用推進室長)
  • 北間 美穂 氏(国土交通省 政策統括官付 地理空間情報課長/内閣官房 地理空間情報活用推進室参事官)
  • モデレーター:平井 瑛(株式会社estie 代表取締役)

不動産×AIは国家戦略になり得るか。幕開けを飾る基調講演で、国土交通省の梶原氏と北間氏が、建築・都市のDXの全体像を語りました。

梶原氏は、BIM、3D都市モデル、不動産ID、地理空間情報を一体で進める建築・都市のDXの全体像を示し、デジタルツインを試しに使う段階から、日常を変える基盤へと変わっていく時期に来ていると述べました。不動産IDについては、当初想定していた方式が現実に合わず立ち止まったことも率直に語りました。

民間企業の立場から、estieの平井は「実際にはどこまで進んでいるのか」と問いかけました。北間氏は、今年4月に始まったBIM図面審査、329都市で整備済みのPLATEAU、2027年度中に一部地域で試行運用をめざす不動産IDなどの現在地を報告し、今後はAIが読むことを前提にデータのAI-Ready化にも取り組むと説明しました。AIのリスクについて平井が尋ねると、北間氏はAIが読み込むデータの信頼性が要になるとして、出典や品質を確認できる仕組みの必要性を挙げました。そのうえで、意思決定の責任は最後まで人間にあると話しました。

また、平井は政府の成長戦略が掲げる重点分野に不動産という言葉が入っていないのはなぜかと尋ねました。梶原氏は、不動産はそれらと横に並ぶ分野のひとつではなく、すべての産業を下で支える社会資本基盤だと答えました。

最後に平井が欠けているピースを尋ねると、梶原氏は、その具体策をいま北間氏と練っているとしたうえで、データの質、データの量と連携、エコシステム、ガバナンスを挙げました。そして「実証で終わらせず、データが循環する仕組みを産学官でつくりたい」と、民間の参画を呼びかけました。

不動産デベロッパーはAI時代をどう捉えているか 〜各社の戦略とその道筋〜

第一会場 13:00〜13:50

  • 髙田 智治 氏(野村不動産ホールディングス株式会社 グループDX戦略部担当 執行役員)
  • 塩谷 義 氏(三井不動産株式会社 DX本部 DX四部 部長)
  • 鳥巣 弘行 氏(東急不動産ホールディングス株式会社 グループCX・イノベーション推進部 統括部長)
  • モデレーター:櫻井 秀介(株式会社estie 執行役員 クライアントソリューション統括本部 本部長)

不動産デベロッパー3社が、AIを経営戦略のどこに置き、どう実装しているかを語りました。モデレーターの櫻井は、2024年の第1回不動産DXカンファレンスでは話の焦点がデータにあり、そこからAIへ関心が移ってきたと振り返りました。

野村不動産ホールディングスの髙田氏は、野村不動産グループDX宣言に続いて策定した「AIシフト宣言」を紹介しました。AIをArtificial Intelligenceではなく Augmented Intelligence(拡張知能)と定義し、人の知性を補完し拡張するものと位置づけていると説明しました。AIは拡張知能であって責任の主体は人間であり、エージェントが自律的に決めていく世界観ではない。それをグループ全体に伝えたいと語りました。

三井不動産の塩谷氏は、組織と浸透の実態を共有しました。前年の組織改正でAI・データ活用に専任する部署を設けたこと、生成AIの利用自体は全社に広がった一方で、カスタムGPTやプロジェクト機能のように文脈を与えて使いこなす層はまだ限られることを挙げ、「使うこと」から「使い方のコツを知る」への移行を次の課題に挙げました。

東急不動産ホールディングスの鳥巣氏は、業務プロセスをAI前提で組み替えた先には、組織のあり方を変える覚悟が問われると指摘しました。競争の源泉はスピードから質へ移るとして、質を担保するものにデータの質、人の判断の質、ガバナンスの3点を挙げ、ガバナンスは関所を設けるのではなくガードレールを敷く発想だと述べました。

終盤、髙田氏は意思決定の速度と、扱う対象がデジタルかリアルかという2軸で、業種ごとのAIとの向き合い方を整理する枠組みを示しました。金融のように自律的なAIが競争力に直結する領域に対し、デベロッパーは拡張型の領域にあると話しました。

アットホームが目指す「不動産DX」の未来について 〜「DX疲れ」を打破する不動産AI戦略〜

第三会場 13:30〜13:50

  • 直井 孝平 氏(アットホーム株式会社 ビジネスデベロップメント本部 基幹サービス開発部門 不動産DX企画部 部長)
  • 後半は対談形式:勝田 良介(株式会社estie VP of Products)

同社が加盟店に行った調査では、DXに取り組む企業の割合の増加はこの1年でわずかだったそうです。一方で不動産会社側の意識には変化があり、集客力の向上という収益に直結するテーマとDXを結びつけて考える企業が増えてきたといいます。情報のデジタル化や働き方の見直しといった守りの段階までは到達したが、その先の新しい事業を起こすことに対する支援が足りていないと整理しました。

自社のチャレンジとして紹介されたのが、AIを使った開発の変化です。数年かけて作ってきたサービスの再構築にAIを用いることで工数を大幅に圧縮できる見通しが立ったこと、今年着手したAI駆動開発のプロジェクトでは、要件定義を人が担い実装をAIが担う形で短期にカットオーバーまで到達したことを共有しました。

直井氏が最大の発見として語ったのは、工数よりも「一度作ったものを壊す勇気ができた」ことでした。従来は積み上げるしかなかったが、AIの活用によってゼロから作り直す選択をとれるし、検討に時間をかけすぎず、お客様に早く使ってもらって実務のフィードバックを反映できると述べました。

終盤には、賃貸管理の更新業務を例に、大半は標準化できても一部のイレギュラーな運用が残るために人の作業が減らないという実務の壁を挙げ、それをAIで引き受ける構想を示しました。

意思決定を支えるデータ基盤

データは持っているだけでは意思決定に効きません。別々に存在してきたデータをどう掛け合わせ、どの粒度で判断に接続するか、その整備を社内でどう進めていくか。この論点では、技術の話と組織の話が同じ重さで語られました。

AI時代、地図は「意思決定基盤」になれるか 〜次世代地図データが拓く不動産戦略〜

第二会場 14:00〜14:50

  • 香川 浩志 氏(株式会社ゼンリン インフラソリューション事業本部 インフラソリューション営業一部 部長)
  • 鹿山 良太 氏(三菱地所リアルエステートサービス株式会社 流通事業グループ 流通業務部 企画課長)
  • モデレーター:和田野 祥子(株式会社estie エンタープライズソリューション事業本部 事業開発)

AIが進化すれば地図は不要になるのか。ゼンリンと三菱地所リアルエステートサービスが、地図の役割の変化と、それを土台にした業務の刷新を語りました。

ゼンリンの香川氏は、地図は不要にならないが役割は変わると応じました。人が見るためのものから、AIが現実世界を正しく理解し人に伝えるための基盤へ移る。インフラ情報、ハザード情報、規制情報などを1つに結びつける土台として、地図は「知のインフラ」になり得ると述べました。

その土台を支えるのは現地調査です。同社は全国の調査網で徒歩調査を行い、計測車両で道路情報を収集しています。空き家かどうかも、ポストにチラシが溜まっているか、門から玄関まで雑草が生い茂っているかといった基準を設けて現地で判定するといいます。香川氏は、AIは既存のデータを処理し認識することは得意だが、現実世界のファクトを確定させるには限界があると指摘。現地で人の目で見る部分は崩してはいけないと語りました。

三菱地所リアルエステートサービスの鹿山氏も、現地でしか分からないものとして音や匂い、表札の変化、人の流れを挙げ、業界は異なっても現場を見る点は同じだと応じました。

後半では、鹿山氏が物件情報登録システムの刷新プロジェクトを紹介しました。従来は物件登録に時間を要し、情報提供の遅れや社内マッチングに課題がありました。そこでAI-OCRによる物件資料の読み取りやマーケットデータとの連携を進め、物件情報の登録から活用までを効率化。登録時間は同条件の比較で最大53%の削減、年間最大7,500時間の創出につながったと述べました。

企画を通す際に意識したのは、耳当たりのいい言葉で飾らないことでした。システム刷新で収益が何億円増えるという書き方を避けたのは、刷新が直接収益を生むのではなく、生まれた時間を営業活動に充てた結果として収益につながる、いわば副産物だと考えたからでした。代わりに、物件登録にかかる時間を計測し、数字とロジックを積み重ねて承認を得たと振り返りました。

今後はマッチングへのAI活用も見据え、営業社員の経験や思い込みで紹介先が固定化することを防ぎ、自社の取引データや顧客ニーズをもとに、担当者の頭になかった購入候補先までAIが提案する仕組みを目指すと述べました。

最後に、DXとベテラン営業の「勘と経験」は、役割が異なると語りました。経験をデータやAIによって組織全体へ引き継ぐ一方、売主の思いや経営課題、買主が描く事業の未来を汲み取り、最後に背中を押すのは人の役割です。AIの力を借りて組織を強くしながら、不動産仲介会社は「お客様の未来を一緒に考える」仕事により集中していく。そのための仕組みがDXなのだと締めくくりました。

広がる不動産業界の「使えるデータ」 〜AIで進化するデータ掛け合わせの技術〜

第二会場 15:00〜15:20

  • 辻中 仁士 氏(株式会社ナウキャスト 代表取締役CEO)
  • モデレーター:櫻井 秀介(株式会社estie 執行役員 クライアントソリューション統括本部 本部長)

カンファレンス全体がAI一色になるなかで、あえてデータの掛け合わせに焦点を当てたセッションです。

ナウキャストの辻中氏は、不動産業界で使えるデータが歴史的に見て大きく広がったと指摘しました。かつては仲介会社が公表する空室率や法人の信用情報くらいしか参照できるものがなかったのに対し、今は登記データ、人流や決済のデータ、賃料データなどが揃うことに加えて、CRMのような自社のデータもクラウド上で管理されるようになったと整理しました。

そのうえで辻中氏は、AIエージェントを検索の代替として使うのではなく業務に組み込むのであれば、社内外のデータとの掛け合わせが欠かせないと述べました。データに接続することで出力の品質が担保され、不要な検索が減ってトークンのコストも抑えられると説明しました。

技術的な焦点として挙げられたのが名寄せでした。出自の異なるデータを結びつけるには、法人番号や不動産IDのような共通のキーが要る。法人番号が整備されたことで、異なる出自のデータを突き合わせやすくなったといいます。

名寄せにLLMを使う発想については、慎重な指摘がありました。単純な作業を高額なモデルに任せればコストがかさみ、商業施設のテナント情報のように個人名が混在するデータをパブリックなクラウドへ送れば個人情報の問題も生じるうえに、同社は商業施設のテナント名寄せをローカルLLMで処理することで、コストを大きく下げられたと紹介しました。

モデレーターの櫻井も、登記情報のPDFが構造化されていないことや、地名の表記揺れのように業界にいれば分かる細かな差異を扱う難しさに触れ、名寄せをどの軸に寄せて行うかが、使えるデータを作る分かれ目になると述べました。

投資家は何を見ているのか

金利環境が変わり、企業が持つ不動産の評価軸も変わりました。資本の出し手が何を見ているかを知ることは、事業会社にとっても運用会社にとっても、不動産戦略を描くうえでの前提になります。

企業不動産の真価を、さらに拓く。

第一会場 14:00〜14:50

  • 宮内 秀聡 氏(株式会社KKRジャパン プライベート・エクイティ ディレクター)
  • 一木 慎一郎 氏(株式会社KJRMホールディングス 副社長)
  • 黒澤 徹也 氏(ヒューリック株式会社 アセットソリューション第二部長)
  • モデレーター:宮内 亮輔(株式会社estie マーケットリサーチ事業本部 営業統括部 統括部長)

企業が保有する不動産(CRE)を、コストではなく成長の原資として扱い直せるか。プライベート・エクイティ、運用会社、不動産デベロッパーという立場の異なる3者が、実際の案件を挟んで議論しました。

出発点に置かれたのは資本市場の変化です。KKRジャパンの宮内氏は、東京証券取引所による資本コストを意識した経営への要請、PBRへの要請、経済産業省のM&A指針などを挙げ、コーポレートガバナンスと資本市場のルールがこの数年で大きく変わったと指摘しました。そのうえで、日本企業はバランスシートに占める不動産の比率が米国企業より高く、保有する不動産が本業に生きているのかを投資家から問われる局面に入ったと話しました。

ヒューリックの黒澤氏は、事業会社では限られた人数で不動産を扱うため手つかずの部分が残り、収入面でも費用面でも改善の余地が大きいと説明しました。一方で賃貸面積と契約面積の相違のようなリスクが潜んでいることもあり、精査したうえで引き受ける必要があると付け加えました。

KJRMホールディングスの一木氏は、専門家が運用することで潜在力を発揮しきれていない資産に投資家の資金を呼び込めるとし、CREを企業と投資家をつなぐ場と位置づけました。

CREをどう広げるかという問いには、従来の総務部門だけではなくCFOや経営企画といった意思決定層に働きかけていく必要があるという認識が共通していました。

AI×データで国内不動産投資市場はどう進化するのか

第一会場 15:00〜15:50

  • 上野 利樹 氏(株式会社日本政策投資銀行 アセットファイナンス部長)
  • 基島 幸蔵 氏(年金積立金管理運用独立行政法人 オルタナティブ投資部 次長 不動産投資統括)
  • 栗山 敏一 氏(農林中央金庫 不動産投資部長)
  • モデレーター:宮内 亮輔(株式会社estie マーケットリサーチ事業本部 営業統括部 統括部長)

日本の不動産市場に長期の資金を供給する3者が、投資判断の土台となるデータをめぐって議論しました。

日本政策投資銀行の上野氏は、金利環境の変化で求められるリターンの水準が上がり、コア投資だけでなくバリューアップの要素で価値を生み出す必要が出てきたと指摘。エクイティ投資ではどの時点でエグジットを図るかを能動的に考える必要があり、運用会社と議論する際には最新のデータを互いに持ち合い、同じ土台に立つことが欠かせないと述べました。

農林中央金庫の栗山氏は、インフレと金利上昇を受けて不動産への向き合い方が明らかに変わったとし、バリューアップの余地がどこにあるかを特定すること、構造的に伸びるセクターを見極めることに取り組んでいると説明しました。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の基島氏は、海外と国内の情報開示の差に踏み込みました。国内の不動産ファンドでは海外と比べて、データ開示項目が少ないことに加え、業界インデックスをベースとしたファンド間パフォーマンス比較の仕組みが確立されていないということについて、今後改善すべき点として言及していました。

また、各社の取り組みとして、GPIFのデータ分析チームの設置や、DBJ・農林中金・estieの運用会社向けAIソリューション開発について共有がなされました。

最後に、改めて運用会社から投資家間へのデータ連携やコミュニケーションの重要性について触れながら、運用会社と投資家が一体となってパフォーマンス向上に取り組んでいく姿勢が示される形となりました。

後編に続きます

後編では、空間をサービスとして設計する動き、運営によって資産価値を上げる実践、そして一日の議論を締めくくった「エリアの価値は、誰がつくるのか」という論点をお伝えします。あわせて、会場の展示や懇親会の様子、この一日を支えてくださった皆さまもご紹介します。

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